『ブギウギ』における“みのすけ”の重要性 迷惑者・鮫島記者は愛らしいキャラクター?
この男はいったいどれだけ余計なことをすれば気が済むのだろうか(怒)ーー。 放送中の朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)を観ていて、このような気持ちを抱いているのは私だけではないだろう。“この男”とは、そう、芸能記者の鮫島鳥夫である。演じているのは劇団「ナイロン100℃」のメンバーでもあるみのすけ。いま彼の動向から目が離せない。 【写真】食事をしながら話すスズ子(趣里)とおミネ(田中麗奈) 本作に登場するようになってからというもの、つねに主人公のスズ子(趣里)にとって迷惑な存在である鮫島。彼は『真相婦人』という雑誌の芸能記者だ。雑誌とはいえ、スズ子ら芸能の世界で生きる者たちのことを面白おかしく好き勝手に書いては大衆を煽る、三流ゴシップ誌である。鮫島は神出鬼没な男で、大事な局面には決まって現れる。はっきり言って気味が悪い。そして読者の誤解を生むような余計なことばかりを書き散らかす迷惑行為。非常にやっかいな存在なのだ。 彼の書いた記事のせいで、有楽町界隈を取り仕切っているおミネ(田中麗奈)がスズ子のもとに、怒り心頭で乗り込んできたのが記憶に新しいところ。鮫島は取材こそ行ってはいたものの、記事内のスズ子の発言は彼女の意に反して、生きるために必死な夜の女たちを軽視するような内容となっていたのだ。 とはいえ、ここまで記してきたのは鮫島のキャラクターについてのこと。あくまでも、『ブギウギ』の世界における彼の役どころに関するものだ。いまの鮫島はスズ子にとってやっかいな人物。彼がスズ子に与える影響は大きい。それはつまり、スズ子の人生を描く本作そのものに対する影響力をも持っているということだ。これを誰がどのように演じるかが重要である。 みのすけが立ち上げた鮫島というキャラクターは、絶妙なバランス感で存在しているように思う。どこか人を小馬鹿にした声の調子で、彼はねちっこくスズ子らを問い詰める。その物言いがどうにも癪に障るが、感情的に他者を攻撃することはない。コテコテの“嫌なヤツ”ではないのだ。絶えず浮かべる微笑は彼の真意を隠し、掴みどころのない人物として成立している。本作は爽やかな朝ドラ。視聴者を朝から本気で不快にさせるような演技を展開するのは正しくないだろう。演者の力量が問われるポジションなのだ。 それにこの鮫島という男は『ブギウギ』において、かなり重要な役割を担っている。何せいまではおミネたち“パンパンガール”とスズ子の関係は、戦後という激動の時代を生きる「同志」だといえるものになっている。鮫島の書いた記事が世に出なければ、もしかすると彼女たちが出会う機会はなかったかもしれない。つまり彼は、物語に新展開を持ち込む役どころなのだ。 この第21週「あなたが笑えば、私も笑う」でも鮫島記者はしっかりやらかしてくれるらしい。彼の策略によって、スズ子の生涯のライバルである“ブルースの女王”こと茨田りつ子(菊地凛子)をピリつかせ、ふたりは“対決(対談)”をすることになるのだ。 りつ子は自身の歌に納得できないスランプ期にあり、スズ子は仕事に子育てにと忙しい日々。そんなタイミングでふたりをぶつからせるだなんて、あまりにも許し難い愚行だ。これによって彼女たちは、一時的に決裂することにだってなるかもしれない。 第9弾の新キャスト発表時に制作統括の福岡利武は、「みのすけさんは神出鬼没な芸能記者。ふてぶてしく、いやらしく、でもどこか愛らしい、そんな男を熱演してくれています」と語っている。いまのところ「愛らしい」とは思えないものの、憎たらしい男だが視聴者にとってはちょっと愉快な存在でもあるのは事実だ。そう、彼の動向が『ブギウギ』の世界に新たなドラマを生み出すのだから。 物語がネガティブなほうへと傾けば、すぐさまポジティブなほうへと軌道修正しなければならない。鮫島の言動は作品全体をネガティブな印象のものに変えてしまう。それをスズ子がポジティブなものへと変えることに強いドラマ性がある。もしかするともうすでに、心のどこかでは“鮫島記者=みのすけ”のことを「愛らしい」と感じているかもしれない。
折田侑駿