『週刊少年ジャンプ』のフィギュアスケート漫画・作者が挑むペア競技の本質「少年誌だけど女性の視点を理想化しない」
【少年誌×フィギュアスケートの難しさ】 ーー連載が始まるまでに一番苦労したことは何ですか? まずひとつは単純に絵のことです。自分の画力の問題もあるんですけど、フィギュアスケートで求められる絵柄と少年誌で求められる絵柄に乖離があって。どういう絵を描けばいいのか、なかなかつかめないまま連載が始まってしまった感じがありました。 さらに週刊連載はだいたい1話19ページで、そのなかでスケートの美しさを連続した動きで見せないといけない。一枚絵だと何をやっているかわからないこともあるので前後の動きも描かなければいけない。さらに話も進めないといけないから、19ページにどうやって納めるかというバランスの取り方は今も苦労しています。 もうひとつは、自分自身がやっていないスポーツであるということ。しかも、ちょっとやってみようって、できるものではないですよね(笑)。お話は伺っていても、選手の感覚や気持ちは確信を持ってわからないという部分がたくさんあるので、そこは難しいなと思っています。 ーー連載が始まってからはいかがですか? ふつう、少年漫画のスポーツものだとまずは小さい大会に出て、勝っていくにつれて次々とライバルが現れて、という流れですよね。でも、ペアは競技人口が少なくて、国内大会も少ない。予選会は1組だけという場合も多いし、いきなり全国大会ですごい選手が出てきちゃう。 初心者もトップも同じ大会に出るという形式にもなるので、週刊連載の少年漫画のフォーマットには合わない形なんです。それでも、毎週描いているなかで、展開をどうにかしなきゃと考えながら進めています。
【宇野昌磨のプログラムを作中で採用】 ーー主人公の峰越隼馬(みねこしはゆま)、隼馬が憧れた「天才少女」の早乙女綺更(さおとめきさら)、トップフィギュアスケーターの空天雪(そらたかゆき)など、出てくるキャラクターがそれぞれ個性豊か。「日本ペアの先人」として描かれる秦冴(はたさえ)は、旦那さんがコーチですし、カナダのペア選手である平昌五輪銅メダリストのメーガン・デュハメルさんがモデルだなと思って読んでいました(笑)。モデルはいるのでしょうか? たくさん選手を見てきて「あの選手はこういう感じかな」というイメージ自体はあっても、「このキャラのモデルはあの選手」とはっきりとしたものはあまりないです。漫画家あるあるとして日常生活のいろんなことからの着想がよくあるので、意外とスケート選手ではない分野の人がモデルだったりもします。それこそ、自分の友達の言葉や感性を参考にしたり。 キャラをつくる時は、アスリート寄りとかアーティスト寄りとか考えたりもしています。そういう側面があるのはスポーツのなかでもフィギュアスケートならではですよね。空天雪は、隼馬と全部逆に、対比になるように意識してキャラをつくりました。 ペアをいろいろ見るようになったのは連載を考えてからなので、担当編集からSNSの反応を聞いて、似ている選手がいたんだなということがよくあります(笑)。 ーースケートファンが喜ぶような小ネタが織り込まれているので、すごく詳しい方かなと思っていました。「ワタシ スケート チョットデキル」Tシャツとか。 フィギュアスケートにすごく詳しいと思われているかもしれないというプレッシャーを日々感じています(笑)。綺更のTシャツは、当時から(トリノ五輪金メダリストの)エフゲニー・プルシェンコさんのネタは知っていて、『ジャンプあるある』でキャラクターが変なTシャツを着るというのもあったので描きました(笑)。 母親がフィギュアスケート好きで、全日本選手権やグランプリシリーズはいつも一緒に見ていたんです。(12回全日本選手権に出場している28歳の)大庭雅選手が中学生くらいの時から見ていましたね。なので、当時から詳しくはないけれど見るのは好きでした。 ーー日本男子の上位選手として描かれる冨士原ロランの『Come Together』は宇野昌磨選手のプログラムから? 最初は違う曲を考えていたんですが、今季の宇野昌磨選手のエキシビションが『Come Together』らしいという情報を見て、ちょうどその時に考えていたネームの文脈的にタイトルが合うな、と。それで曲を聞いてカッコいいから、これにしようという偶然の出会いでした。