“物語”のはじまりを描く『傷物語 -こよみヴァンプ-』…知っておきたい、怪異と出会ったヒロイン総まとめ
2016年から2017年にかけ、『傷物語〈I鉄血篇〉』『傷物語〈II 熱血篇〉』『傷物語〈III 冷血篇〉』の三部作で公開された「傷物語」。現在、週刊少年ジャンプで原作として「暗号物語のいろは」を連載中のほか、「刀」シリーズ、「忘却探偵」シリーズ、「美少年」シリーズなど、小説、漫画を問わず多数の作品を生みだしてきた西尾維新のヒット小説が原作だ。 【写真を見る】ダメージドレスと金髪、目を奪われる妖艶さを放つキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード その「傷物語」を一つの劇場作品として再び制作したのが、1月12日(金)公開の『傷物語 -こよみヴァンプ-』。「物語」シリーズのおもな主人公である阿良々木暦(声:神谷浩史)と、彼と因縁とも奇縁とも言える強い関係で結ばれたキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード(声:坂本真綾)がどのようにして出会い、どのような関係を築くことになったのかという、いわば「物語」シリーズの“はじまり”が描かれる。 そこで本稿では、長く続く「物語」シリーズの概要を説明しながら、『傷物語』とはなんなのか、「物語」シリーズではどんな人物が登場するのか、そしてその中心にいる阿良々木暦&キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードがどのような人物なのかを紹介していく。 ■「物語」シリーズのはじまりに迫る『傷物語 -こよみヴァンプ-』 「物語」シリーズは、2006年の第1巻刊行以来、現在も続いている西尾による青春怪異小説。主人公の暦、彼の姉妹や同級生、先輩、後輩、怪異によって出会った人物の群像劇となっており、テレビアニメをはじめ、様々なメディア化がされている。本作でカギを握る“怪異”とは、人間の信仰や都市伝説といった噂が生んだ存在を指し、一部の人間には視え、実際に攻撃をしたり呪いをかけてくるものもいれば、ただ名前だけが独り歩きした“実在しない”ものも。そんな複雑な存在である怪異と出会った暦が、怪異の専門家や友人たちの力を借りて、怪異と向き合っていくのがおもなあらすじである。 『傷物語 -こよみヴァンプ-』は上述の通り、本シリーズのはじまりの物語。ただの人間であった暦が、高校2年生の春休みにキスショットと出会ったことで吸血鬼になるまでの顛末が描かれる。シリーズ第1作である「化物語」では、暦がすでに吸血鬼であるという前提で話が進んでいくので、「傷物語」で描かれるまでは断片的にしか語られてこなかった“春休みの出来事”が明かされていく。 怪異と出会い、翻弄された登場人物…。ここからは「物語」シリーズに登場する、知っておくべきキャラクターを紹介していく。阿良々木暦については後述する。 ■蟹に行き遭った女、戦場ヶ原ひたぎ 本作のヒロインであり、暦の恋人でもあるひたぎ(声:斎藤千和)。「化物語」で初めにフィーチャーされるキャラクターだ。暦と同じく直江津高校に通っており、成績優秀で、本来は運動神経も優れた文武両道、そして才色兼備の3年生。中学時代は、後述の神原駿河と共に陸上部で大活躍していた彼女だが、「難病を患っている」ことから高校では激しい運動は控えている。 彼女は、母親が宗教団体に入信し、自身もその教団員からひどい目に遭ったことで、怪異「おもし蟹」と出会う。おもし蟹は、想い(重い)=重さ(体重)を肩代わりする怪異であり、ひたぎの言う「難病」というのは、これにより体重が5kgしかなくなっていることを隠すものでもあった。想いを奪われたことで、母のことや、自分がされたことへの苦悩は失くせたものの、想い(重さ)を失うことは彼女にとって最善策とは言えず、暦を通じ、怪異の専門家である忍野メメ(声:櫻井孝宏)の手を借りることで体重を取り戻した。 助けを求めて詐欺師に立て続けにだまされたりしたことなどによって形成された、攻撃的で用心深い面が目立つが、本来は友人たちを大切にする情に厚い性格。毒舌を炸裂させつつも、暦を大事にしているのがよくわかる彼女の振る舞いには思わずほっこりさせられる。 ■猫に魅せられ、虎に睨まれた女子高生、羽川翼 「傷物語」でも重要な役割を担う羽川翼(声:堀江由衣)。直江津高校の3年生で、暦やひたぎのクラスメイトであり学級委員長。ひたぎを凌ぐ学力を持つほか、分析や推理といった頭の回転の速さも桁違い。どんな事件も必ず答えにたどり着き、メメら怪異の専門家の大人たちからは、やや苦手意識を持たれているらしい。 車に轢かれた猫を埋葬したことがきっかけで、性格を豹変させる「障り猫」に憑かれる。さらに、実父が不明であるほか、金銭目当てで結婚した母親が自殺し、さらにその実母の夫は現在の義母と結婚するも過労死、義母も再婚したため両親とは血のつながりがない。事実上の天涯孤独であり、現在の両親との関係も非常に悪い。さらに、密かに想いを寄せていた暦が、ひたぎと恋人になったことでストレスが重なり、それがきっかけで「ブラック羽川」という、彼女の苦しみを背負うもう一つの人格となる、新たな怪異を生みだした。 春休みの件で負い目こそ感じている暦だが、それでも羽川を強く信頼しており、彼女の解決力に頼らざるを得ないシーンも多々。また、暦が戦いに出向く時に、彼の妹たちの面倒を任されるなど、一目置かれている様子だ。 ■蝸牛に迷った少女、八九寺真宵 大きなリュックを背負い、常に道に迷っている八九寺真宵(声:加藤英美里)。暦から、出会い頭に激しいスキンシップを取られ、八九寺が怒る、というのがお決まりのやり取り。小学生でありながら達観した考え方を持ち、時に暦にアドバイスを送るという場面も。 八九寺の場合、彼女自身が「迷い牛」、一般的な言い方でいう地縛霊の怪異。離れて暮らす母のもとへ向かう途中、交通事故で命を落とし怪異となってしまった。迷い牛は、自分も目的地に“帰る”ことができないことに加え、「家に帰りたくない」と願う者の前に現れて、その人物を永遠に迷わせる。10年以上もの間迷い続けているため、本来であれば暦たちより歳上。見た目に反して長くこの世界にとどまっているため、彼女の大人びた発言にも納得がいく。 ■猿に願った少女、神原駿河 直江津高校に通う2年生、神原駿河(声:沢城みゆき)。運動神経が抜群によく、弱小だった直江津高校バスケ部を全国大会へと導いた。加えて、人当たりもよく明るい性格なため学校内には彼女のファンクラブが存在するほど。また、爽やかな見た目に反し、いかがわしい思考の持ち主で、それゆえに髪が伸びるのが異常に早いという。 ひたぎを愛しており、彼女が抱える悩みを解決しようとしたが拒絶され、距離を置くうちに暦が解決してしまったため、暦に強い憎しみを抱くように。いまは亡き神原の母が遺した「悪魔の手」に、「ひたぎと以前のような関係に戻る」ことを願ったが、その奥に潜んだ「暦を排除したい」という願いが叶ってしまう。彼女の左腕は猿となり、夜な夜な暦に襲いかかるように。暦とひたぎにより、願いが叶うことはなかったが、ひたぎと元の関係に戻ることができた。 ■蛇に巻かれ、噛みつかれた女子中学生、千石撫子 千石撫子(声:花澤香菜)は、暦の母校に通う中学生で、暦の妹の月火(声:井口裕香)とは小学校の同級生。内向的かつ気弱な性格で、その性格ゆえに二度怪異と相対することになる。暦に想いを寄せており、暦を自宅へと呼び2人きりで遊ぶなど、暦を前にすると普段の彼女からは想像できないほど積極的な姿を見せ、暦の「男の子としての大事ななにか」が危機にさらされる時もあった。 千石は、自身に言い寄ってきた男子を拒否したことで、呪詛「蛇切縄」に見舞われている。暦の活躍で無事、蛇切縄の呪いは解けるが、クラスメイトのいさかいを担任から押し付けられたり、暦とひたぎの関係を知ってしまったりとストレスが重なり、自ら暦たちが住む街の神社である北白蛇神社の御神体を飲み込んで邪神に。いずれも強く出られない性格が怪異を引き起こす形となっており、彼女にまつわる怪異は、ほかと比較してもかなり厄介なものだった。 ■蜂の少女&ホトトギスの少女、阿良々木火憐&月火 暦の妹で、火憐(声:喜多村英梨)が中学3年生、月火が中学2年生。2人あわせて「ファイヤーシスターズ」と呼ばれており、自身の通う学校や周辺のトラブル解決に精を出し、「ファイヤーシスターズ」という名前は母校が異なるひたぎも知っていたほど。飛び抜けた運動神経を持つ火憐が実戦、冷静に物事を分析できる月火が参謀を担当している。 火憐は、詐欺師によって中学生の間でおまじないが流行った際、事件解決のため単身詐欺師のもとへと乗り込むが、「囲い火蜂」の怪異を与えられ高熱を出すことに。しかしこれは詐欺師の催眠によるプラシーボ効果であったため、メインキャラのなかでは唯一、実在の怪異には襲われていない。また、月火は彼女自身が「しでの鳥」という怪異で、人間の母体に托卵しその子どもとして転生するという特性を持っている。つまり、人間に擬態した怪異ということだ。月火自身は自分が怪異とは気づいていないようだが、暦が知っているのはもちろんのこと、火憐もうすうす気づいている。 ■春休みに吸血鬼を救った男、阿良々木暦 『傷物語 -こよみヴァンプ-』のタイトルロールであり、「物語」シリーズの主人公。直江津高校3年生で、キスショットとの出来事まで、クラスメイトたちとは深い関わりは持たず、1年生の時に起きたとある出来事から、ニヒルな皮肉屋として周辺と関わっていた。両親は共に警察官で、数学がずば抜けて得意。高校では落ちこぼれとなった彼が、数学だけはトップの成績を誇ったことが、上記の「1年生の時に起きたとある出来事」を引き起こしている。 一見飄々とした性格のように見えるが、困っている人を見捨てられない性格。この見捨てられない性格や、強すぎる自己犠牲精神が「傷物語」の出来事の始まりと言えるだろう。また、「傷物語」で吸血鬼化して以降は、並外れた回復力と身体能力を理由にいっそう自己犠牲精神が増してしまい、人知れず敵に立ち向かおうとする場面も多々。そんな心優しい性格を備えているものの、関わった人物全員に同じだけの優しさを向ける八方美人的な部分もあり、羽川や千石のようにその優しさが祟って怪異を引き起こしてしまう場合もある。それが彼の欠点とも、魅力とも言っていいだろう。 また、八九寺や神原に対しては変態的な面を露わにするなど思春期らしい貪欲さもしばしば表し、ひたぎがいながら、先述の2人にはそれぞれ「結婚しよう」と告白(?)している。そんな気が多いように見える暦だが、ひたぎへの想いは本物であり、ひたぎの暦への想いも本物だ。最初は歪だった2人の関係も、物語が進むにつれ、信用し合い、愛し合っていることが画面越しにもよく伝わってくる。ひたぎが過去と決別しようと詐欺師と対峙するエピソードでの2人のやり取りからは、関係性がグッと近づくのが見て取れ、こちらまでときめかされてしまう。 『傷物語 -こよみヴァンプ-』では、初対面であったはずのキスショットに命を捧げた彼の優しさと、その後の奔走、解決に至るまで、阿良々木暦という人物の魅力を一気に楽しむことができる。 ■美しき怪異の王、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード 「化物語」では、8歳程度の幼女、忍野忍として登場するキスショット。2016年の三部作に記された「鉄血篇」、「熱血篇」、「冷血篇」という名前は、彼女を表す「鉄血で熱血で冷血の吸血鬼」という言葉に由来している。元々は人間であり、「うつくし姫」と称されるほどの美貌の持ち主であった。しかし、この美貌をめぐり多くの人々が命を落とすことに。そんな状況に耐えられずに始めた旅の途中に出会った吸血鬼、スーサイドマスターの眷属となり吸血鬼化。実年齢はおよそ600歳となる。 最盛期には「怪異の王」と呼ばれており、怪異のなかでも最強クラス。異常なまでの再生能力を持つほか、本来吸血鬼が持つべき弱点すらも克服しているという。しかし、「傷物語」での出来事以降は、その力はなくなり「吸血鬼の残りカス」とも言われるほど弱体化。定期的に暦の血液を吸わないと消滅してしまうため、暦の影のなかに潜みながら時折吸血することで命を維持している。 そんな最強のキスショットだが、幼女姿の忍の時には意外にもお茶目でどこか子どもっぽい面が目立つのがかわいらしい。高飛車で態度も大きいが、実はナイーブな心の持ち主で、執拗な煽りを受けた際には、目を潤ませてたじろぎ、見かねた暦にフォローされると、今度はたちまち椅子にどっかりと腰をかけてうれしそうに頬を赤くしていた。また、ミスタードーナツのゴールデンチョコレートをこよなく愛しており、暦となにか約束をした時に見返りとしてゴールデンチョコレートを希望する場面も。怪異を食う怪異であることから「怪異殺し」とも言われる彼女だが、忍の時にはチャーミングな面もたくさんあり、きっとそのギャップに心を奪われてしまうだろう。 ■怪異を巡る「物語」のはじまりに触れる『傷物語 -こよみヴァンプ-』 「化物語」以降、怪異や、怪異ではないなにかを巡るいくつもの出来事と対峙していく阿良々木暦。そもそもなぜ彼が怪異と関わるようになったのか、どのように怪異と出会ったのか、そして、どうして吸血鬼となってしまったのか。シリーズのはじまりを再び1本の劇場アニメとして描く『傷物語 -こよみヴァンプ-』で、「物語」の原点に触れてみてはいかがだろうか。 文/佐藤来海