「芸陽堂」の煎餅、6月にも復活 2023年閉店の老舗、広島市中区の建築資材メーカーが継承 頼山陽の焼き印も味も再現
明治末期から112年続き、2023年9月末に惜しまれながら閉店した老舗「芸陽堂」(広島市中区堺町)の手焼き煎餅(せんべい)が、6月にも復活する。引き継ぐのは中区吉島西の建築資材メーカー「ナガ・ツキ」。看板商品だった「頼山陽煎餅」の焼き印など先代からの道具を使い、親しまれた味を再現する。 新店舗は同社近くに構える予定で、店名に「芸陽堂」の文字を入れる。会社ロゴの焼き印入りのせんべいを発注した縁から、長谷川晴信社長(56)が「歴史ある店の名が消えるのはもったいない」と継承を申し出た。広島ゆかりの江戸後期の儒学者頼山陽の座像や原爆ドームの焼き印、店頭の看板などを譲り受けた。 焼き手を務めるのは、愛知県出身で昨夏、妻の出身地の広島市に移り住んだ畔柳(くろやなぎ)僚太さん(28)=中区。就職活動中に募集を知り、「広島の人々に親しまれた芸陽堂の明かりを守りたい」と志願した。 2月半ばから、仮の調理室で練習を積む。小麦粉と卵黄、砂糖だけで作った生地を金型に流し、弱火でじっくり焼く。炎が揺れると焼きむらが出るため、神経を研ぎ澄ます。芸陽堂で製造担当だった男性(62)からは「焼いて焼いて焼きまくって自分で食べ、最適なやり方を体で見つけてほしい」と助言を受けた。 試し焼きで焦がすこともあり、畔柳さんは「シンプルなのに想像以上に繊細な仕事」と奥深さに感じ入る。開店を見据え「今までの味を守り、長年のファンの期待に応えたい」と張り切る。
中国新聞社