<私の恩人>大泉洋、役者への挑戦は怖かった
東京で役者の仕事をしたいと言っても、ウチの事務所はあくまでも北海道の事務所で、東京に拠点はない。だから、東京で俳優としても活動するには東京の事務所と業務提携をするしかなかったんです。そこで、大手芸能事務所の「アミューズ」さんにお世話になることになりまして。それはとてもありがたいことでたしたが、同時に不安もありました。北海道の小さな事務所の自分たちからしたら、大きな大きな「アミューズ」さんというところでどうなっていくのか。私は北海道ではバラエティーしかやってませんでしたから、バラエティーでどんどん売られて、疲弊していって、“一発屋”のようになっていっても怖いし。とにかく、東京という場所でどうなっていくのか。自分の人生の前に現れた大きな波が正直怖かったんです。 でも僕と事務所の今後についてきちんと話し合った時に鈴井さんが言ってくれたんです。 「大泉君、確かに僕たちは今、大きな海に出ようとしている。恐らく不安もあるでしょう。でも、安心してください。僕らは大きなエンジンを積んだ大型船で一気に出航するわけじゃないから。僕たちは僕たちらしく手こぎボートで海に出て行くつもりです。危ないと思えばいつでも岸に戻れますから」って。 「海に手こぎボートって危ないだろう!」とも思いましたが(笑)、その言葉ですごい気持ちが楽になったんですよね。「俺にはこんな家族みたいな事務所があるし、北海道っていう岸があるんだ」って再認識できたんです。私たちの仕事は精神的に安定して続けていくことが本当に難しいんです。常に「仕事がなくなったらどうしよう…」「これがコケたらもう次はないかもしれない…」という不安を抱えながら過ごしている。これは仕方ないことなんでしょうけど、そこで疲れていくというのは、非常によくないことで不安で自らの足を引っ張って悪循環を生んでしまうと思うんです。 ただ、今でも鈴井さんのあの時の言葉は心の奥にあって、それがあるから安心して仕事が続けられてるんだと思います。変に消極的な意味ではなく、僕には北海道という手こぎボートが戻る場所がある。だから強くいられるし北海道という大地をより一層、これからも大事に思える言葉でもありました。 ■大泉洋(おおいずみ・よう) 1973年4月3日生まれ。北海道出身。本名同じ。94年、北海学園大学に入学。演劇研究会に所属し、友人5人で演劇ユニット「TEAM NACS」を結成する。大学在学中の95年、鈴井貴之氏の勧めで北海道テレビの深夜番組「モザイクな夜V3」に出演し、芸能活動を開始。96年からは同局の深夜番組「水曜どうでしょう」に出演し、人気を博す。2005年には、フジテレビ系「救命病棟24時」で全国ネットの連続ドラマに初出演。映画では「探偵はBARにいる」、「青天の霹靂」、「ぶどうのなみだ」などに主演。8日公開の映画「トワイライト ささらさや」では、不慮の事故で亡くなってからも妻(新垣結衣)を見守る元落語家の夫を演じている。 ■鈴井貴之(すずい・たかゆき)1962年5月6日生まれ。北海道出身。本名・同じ。「水曜どうでしょう」(HTB)ではミスターの愛称で企画・出演に携わる。構成作家・映画監督・タレントの他、現在は舞台「SHIP IN A BOTTLE」にて作・演出・出演を務める。東京・大阪・名古屋・札幌にて11月30日まで公演中。 ■中西正男(なかにし・まさお) 1974年、大阪府生まれ。大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。大阪報道部で芸能担当記者となり、演芸、宝塚歌劇団などを取材。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、芸能ジャーナリストに転身。現在、関西の人気番組「おはよう朝日です」などに出演中。