【米CPIと1ドル153円台の読み方】米国のインフレ率は「でこぼこ道」にいるのか、「再燃の入口」にいるのか
3月の米CPIが予想以上に上昇したことを受けて、円相場は34年ぶりとなる153円台まで上昇した。 FRBのパウエル議長はインフレ収束までの道のりを「でこぼこ道」と表現しており、今回のCPI上昇もでこぼこ道の範疇と見ることはできる。 だが、今の原油高が一過性でないとすれば、CPIの強含みも一過性ではなくなる。CPI上昇がインフレ再燃の入り口であれば、さらなる円安に見舞われる可能性もある。 (唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト) 【著者作成グラフ】米CPIと失業率の推移。サービス価格の上昇がCPIの上昇をけん引した。 4月10日、米国時間のドル/円相場は1990年6月以来、34年ぶりとなる153円台まで上昇した。米国の3月消費者物価指数(CPI)が2月の前年比+3.2%から同+3.5%へ予想以上に加速したことを受けた動きだが、これを一過性の振れと見なすかどうかが今後の争点になる。 もとよりFRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長はインフレ収束への道のりについて、「a bumpy path(でこぼこ道)」と表現してきた経緯がある。上振れたと言ってもまだ1か月分であり、まだ「でこぼこ道」の範疇だと抗弁する余地はあるだろう。 しかし、今回のCPIの押し上げにはガソリン価格と電気代が効いており、原油高の影響が可視化され始めた部分もある。 原油高が一過性ではないとすれば、CPIの強含みも一過性ではない。だからこそ、これを「でこぼこ道」の一環ではなく、「インフレ再燃の入口」と見なす論調が、今後勢いを得る可能性も十分にある。 今のところ、「インフレ再燃の入口」である可能性を完全否定する材料はない。だが、今回に限って言えば、「でこぼこ道」の一環と思わせる要素はある。
■ CPIの伸びをけん引した輸送サービスの背景 例えば、3月のCPIは、食料・エネルギー除くコアベースでは同+3.8%と横ばいだったが、その中身を見ると、サービス価格が前月の同+5.0%から同+5.3%へ加速したことが目に付いた(図表(1))。サービス価格の加速幅(+0.3%ポイント)は2022年12月以来、15か月ぶりの大きさである。 【図表(1)】 これをけん引した項目として、家賃(同+5.7%)、医療サービス(同+2.1%)、輸送サービス(同+10.7%)が挙げられ、寄与度としては家賃が大きいのはいつも通りである(帰属家賃の寄与度は1.5%ポイント)。 ただ、前月比の伸びで見ると、とりわけ輸送サービスの強さが際立つ。これは自動車保険(同+22.2%)の強さを反映した動きだ。寄与度でも自動車保険は0.564%ポイントと帰属家賃に次ぐ大きさを記録している。 この自動車保険の上昇が持続性を持つのかといえば、そうではないだろう。車両価格の変動や自然災害の発生等を踏まえた上で、ラグを持ちながら自動車保険料は上がるはずである(保険料とはそういうものだ)。 パンデミックの最中で自動車生産が停滞し、代替需要で中古車価格が上昇したことの影響などが今になって顕現化し始めている、と理解するのがフェアだろう。 こうした状況を評価するならば、現時点で、パウエル議長が今回のCPIを「でこぼこ道」の一環と評価する可能性はまだ高い。