<春風を待つ―センバツ・宇治山田商>支える人々 「楽しむ」甲子園でも 松阪の少年野球チームの教え /三重
宇治山田商の自慢の投手陣、田中燿太(ようた)(2年)と加古真大(まさひろ)(1年)と4番打者・小泉蒼葉(あおば)(同)は小学生時代、松阪市の軟式少年野球チーム「松尾ブルーウィンズ(BW)」でともにプレーした。チーム代表を務める西健之(たけし)さん(59)は、野球を長く続けてもらうことを目標に、始めたての3人が楽しんでプレーできることを一番に考えてきたという。【原諒馬】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち ◇投打の主力3人がプレー 「西さんはいつもニコニコしていた。おかげで野球が今も楽しい。考えすぎない性格にもなった」。田中が回想する。昨秋の東海大会準決勝・豊川(愛知)戦で六回裏、無死満塁のピンチに登板し、無失点でしのいだ強心臓は、松尾BWで素地が整えられたのかもしれない。 松尾BWのモットーは、「勝つことだけを目的にしないこと」だと西さんは言う。子どもたちが一生懸命プレーすれば、多少の失策では交代させない。好打はほめる。「やる気を引き出すことが大切。それが子供たちの成長につながる」と考える。 2019年、プロ野球・千葉ロッテマリーンズの本拠地、ZOZOマリンスタジアムで試合を経験させた。小泉の記憶は鮮明で、「初めてプロ野球で使う球場に入った。広さに驚いて、いつか大きな舞台で試合をしたいと考えるようになった」 楽しむ野球のモットーは西さんの経験に由来する。少年野球が盛んな熊野市出身で周囲に合わせるように野球を始めたが、「体力に自信がなかった」と小学校高学年で辞めてしまった。だが、体育の授業でソフトボールをし、「チームで勝った時、みんなで喜べたりするのが楽しい」と感じた。高校では吹奏楽部でトランペットを担当。三重大会に出場した野球部をスタンドから応援した。 西さんと松尾BWのコーチ陣が共有するのは、「野球を長く続けてほしい」という思いだ。強豪の中学や高校での部活は練習が厳しく、野球が嫌になって辞める子どももいた。西さんは「高校で一番、充実した気持ちで野球に取り組んでほしい。そのためには、小学生のころからつらい思いはあまりさせたくない。勝つことも大切だが、練習を通じて野球の楽しさを知ってほしい」と語る。 松尾BWで加古と小泉は、試合で得点につながると全力で喜び、負けると全身で悔しさを表現した。田中はおとなしいタイプだったが芯が強く「勝ちたい」と周囲に話すこともあった。加古と小泉の同級生のチームメートは、現在もほとんどが高校などで野球を続けているという。 松尾BW出身者が甲子園に出場するのは、18年春の三重高・吉井浩輔さん以来。春の便りはチームの子どもたちの刺激にもなった。小学6年の花村遼太さん(12)は「自分ももっと頑張って、高校で甲子園に出て活躍したい」と声を弾ませた。西さんは「子どもたちに希望を与えてくれた」と3人に感謝している。 〔三重版〕