種子法廃止誰のため…守るべきは地域ブランド米?消費者ニーズは低価格米?
「種子法(主要農作物種子法)」廃止で何が変わるのかを追う連載。3回目は元農林水産大臣で弁護士の山田正彦氏が訴える問題点から、日本の「食」にどのような危機が忍び寄っていると指摘されているのか、それに対して私たちにはどんな選択肢があるのかを考えていきましょう。
元農相があらわにする危機感
「君たちも頑張っているんだけれど、言いにくいことがあるのは分かっているよ」 昨年12月に都内で開かれたシンポジウム。種子法廃止の意義を訴える農水官僚を前に、山田氏が暗に“外圧”の影響をほのめかすと、官僚が苦笑いしながらそれを否定する一幕がありました。 山田氏は2010年6月から約3カ月間、民主党政権で農水大臣を経験。農業のグローバル化、大規模化を促すTPP(環太平洋パートナーシップ)協定には一貫して批判的で、農相退任後の11年2月に発足した超党派の議員連盟「TPPを慎重に考える会」では会長に就いていました。 種子法廃止は米国主導時のTPP関連交渉で、米国側が日本政府に求めた規制緩和を実現するための動きだと主張しています。 「種子法があることで日本のコメ、麦、大豆が守られてきた」とも断言する山田氏。それは種子法の下で「安く」「安定的に」「地域にあった多様な品種」のタネが供給できたからだというのです。
ケタ違いに価格が高い民間のタネ
連載の初回で愛知県の「ミネアサヒ」の例を示したように、日本のコメのほとんどは各都道府県の農業試験場などが公費を投じて元のタネ(原種、原原種)を管理、増殖し、農家に安く流通させてきました。 農水省が種子法廃止について検討した資料によると、水稲種子の市場価格は現在、コシヒカリ(石川県の例)で1キロ約400円。業務用の品種「きらら397」(北海道)では1キロ350円ほどです。 一方、民間企業が開発した主食米「とねのめぐみ」は1キロ約860円、同じく民間開発で業務用の「みつひかり」は1キロ4,000円とケタ違いに跳ね上がります。これは民間のほうが開発や品質管理にコストがかかるうえ、なかなか普及が進まないため流通価格が高止まりしてしまうからです。 だからこそ、こうして民間の市場参入意欲を削いでいる種子法を中心とした枠組みを撤廃しよう、というのが国の言い分なのです。