「消えた赤ちゃん」法で守れ 韓国で7月から匿名の「保護出産」 出生届未提出は2000人超
韓国で、未婚女性らが身元を隠して医療機関で子どもを産める「保護出産」が7月から法的に認められる。政府の調査で病院に出産記録があるのに出生届が出ていない「消えた赤ちゃん」が少なくとも2千人以上いる実態が明らかになり、未婚の母に対する根強い偏見などが母子の命を危険にさらしていることが顕在化。匿名で安全に出産できる制度の法制化につながった。日本の「赤ちゃんポスト」に当たる「ベビーボックス」を運営するキリスト教会「主の愛共同体」の李鍾洛(イジョンラク)代表(69)は「これまで国の保護の枠外にいた母子が法で守られるようになる」と評価する。 ベビーボックスに併設されている相談室=韓国ソウル市 白い布にくるまれた女児が、職員の腕の中でミルクを飲んでいた。ベビーベッドでは別の女児が柔らかいシーツの上で眠っている。4月上旬、ソウル市内にあるベビーボックスとつながる育児室では、3月に生まれたばかりの2人の赤ちゃんが、安らかな時間を過ごしていた。 行政をチェックする監査院は昨年6月、出産直後に付与される「臨時新生児番号」があるのに出生届が出されていない子どもが、2015~22年の8年間で2236人いたと明らかにした。調査の過程で200人以上の死亡が判明し、乳児の遺体を冷蔵庫に保管したり、山林に捨てたりした事件が次々に明らかになった。韓国紙は「支援」と称して接触するブローカーや新生児の闇市場の存在も報じている。生存が確認された約千人の多くは、ベビーボックスに預けられたとみられている。 同教会によると、09年のベビーボックス設置以降、約2300人の赤ちゃんを受け入れている。多くが不倫などで予期せぬ妊娠をした未婚の成人女性や未成年者による出産で、シングルマザーに対する偏見を恐れ、悩んだ末に預けに来るという。 李さんは「韓国は社会的価値観や儒教などの影響から、未婚の母は親や兄弟からも『悪いことをした』という目で見られてしまう。1人では育てられず、赤ちゃんは預けられたり、捨てられたりしてきた」と話す。保護出産が認められれば、母親は匿名で守られ、赤ちゃんの命は国が保護できるようになると期待する。