佐藤二朗「20代はずっと暗い檻の中」 妻と出会った下積み時代を回想「戻りたくはない」
ミステリー映画『変な家』で怪演
人気YouTube動画を原作にしたミステリー映画『変な家』(公開中、石川淳一監督)で、俳優・佐藤二朗(54)が、変人設計士を怪演している。さまざまな作品で存在感を放つ佐藤に、培ってきた役作り理論を聞いた。(取材・文=大宮高史) 【写真】顔の大きさに「トリックアートか」と反応…橋本環奈&佐藤二朗&安藤嗣海の3ショット 佐藤が、またも“らしさ”を発揮している。『変な家』は、家の間取りにまつわる謎が恐怖に発展するゾクっとミステリー。原案はライターでYouTuberでもある雨穴(うけつ)のウェブ記事と動画で、動画は2020年の公開から1700万回以上再生されている。佐藤はこの経緯を踏まえ、作品の印象をこう表現した。 「YouTubeの20分程度の長さの動画から火がついて映画にまでなった。皆がネット空間で探し当ててヒットしたという熱さがこの作品にあって、映画にもある種の力を与えてくれたと思います」 オカルト専門の動画クリエイター雨宮(間宮祥太朗)とミステリー愛好家の設計士の栗原(佐藤)は、ある家の間取りがおかしいことに気づく。栗原は、謎を解明するにあたって鋭い推理力を発揮していくのだが、初登場シーンでは大きなパフェを食べている。中年男性とパフェのミスマッチな絵面には、インパクトがある。 「パフェの食べ方は監督のアイデアです。『ぐちゃぐちゃに食べてくれ』という見せ方を言われて、栗原なりの変人スタイルをつかむヒントになりました。ある物事には突出しているんだけど、それ以外にはまるで無頓着。でも、本人はどう見られていようが気にしていない。おそらく、しょっちゅう寝ぐせがついていることすら気づかない、パフェの食べ方からそんな想像をしました。もちろん、(栗原は)建築やミステリーにはものすごい執着があって賢い人なのですが、ワンシーンからこういう想像をしてみました」 一見、普通の家に見える間取りに、謎を見つけて観客を誘う栗原を演じるにあたって、モデルとなる著名人が思い浮かんだという。 「政治学者の姜尚中(かん・さんじゅん)さんをイメージしました。僕は姜さんがテレビに出た時などに見せる存在感が好きなんです。そんなに話し声が大きい人ではないんだけど、繊細な声をしていて、語り始めると場の空気がぐっと変わるんです。皆が彼の言うことに耳を傾けたくなる、上品で繊細な声の持ち主だなと思っていて。栗原としての立ち振る舞いでは、姜さんを意識してみました。言葉を発すると、空気が彼の周囲に凝縮されるような緊張感を狙っています」 “変人役”としては、適度な現実感を忘れないようにしている。その感覚を「『かも』を大切にしているんです」と丁寧に語った。 「お客さんは『こんな人いるわけがない』『こんなことを言うわけがない』『こんなことをするわけがない』と思った瞬間にマッハの速度で引いてしまうと思うんです。だから、『こんな人いるかも』『こんなこと言うかも』『こんな風にするかも』の『かも』を、僕は大事にしています」 実在の人物を参考にし、観察した仕草をリアルな演技に生かしてきた証しだ。 「過去にドラマでコンビニ店員の役を任されたことがあります。台本には『いらっしゃいませ』としか書かれていないんだけど、だるそうな店員さんの口調をまねて、舌足らずな滑舌で『いらっしゃいませ~』と話したりしました。『いやっさいませ~』みたいな口調の店員さん、いますよね(笑)。これも『こんな人いるかも』と思ってもらうための工夫です」 役へのイメージトレーニングについては「知恵熱が出るほど考えこむ時もあるし、まっさらにニュートラルな状態で現場に臨むこともあります。栗原は前者でした」と明かした。だが、自身のアイデアには固執しないという。 「いくら事前に想像を重ねても、現場でいったんリセットしないと面白くならないですね。現場で僕の周りの大道具、小道具に何があるのか、監督や俳優さんはどんなオーダーをくれるか。それらに僕が合わせていきます。それでも困った時に、事前に考えたことががヒントになる場合があります」 ミステリーも、少年時代から好きなジャンルだった。 「例えば横溝正史さんのドラマ化や映画化作品。子ども心ながらにものすごく怖くて、見る勇気がないんだけど見たくなる。そんな吸引力を感じていました。映画『変な家』はまたそれとも違う、独特の怖さや吸引力がある作品だと思います。『家の間取り』の違和感から入るミステリー。家の間取りがすごく怖いものに思えてきて『素朴な日常が恐怖に変わる、身近な怖さ』は、多くの人に共感してもらえるのではないでしょうか」