事故物件、奇祭、憑依チャレンジ…若者の悪ノリが招いた、背筋が凍る“しっぺ返し”
賞レースをにぎわす名作から身の毛もよだつホラーまで、個性豊かなインディペンデント作品を配給・製作しているA24。いまや映画界の一翼を担う存在になったA24が放つ最新作が『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(12月22日公開)だ。若者たちがお遊び感覚で行った霊の憑依が最悪の事態を招く本作は、独特の死生観を持つA24らしいホラー映画である。 【写真を見る】あまりの残虐さに直視できない…村で生贄として命を捧げられる若者たち(『ミッドサマー』) 17歳のミア(ソフィー・ワイルド)は最愛の母を亡くしたばかりで、親友ジェイド(アレクサンドラ・ジェンセン)の家で過ごすことで寂しさを紛らわせていた。ある晩、ミアとジェイドは同級生が開催する降霊会「憑依チャレンジ」に参加する。キャンドルを灯し、不気味な呪物の“手”を握って「話したまえ(Talk to me)」と唱えると死者の霊が目の前に現れ、それを受け入れることで体内に憑依させるのだ。90秒以内に解けば安全だが、それ以上が経過すると霊はそのまま肉体に居座ってしまうという。ジェイドの弟ライリー(ジョー・バード)も挑戦するのだが、彼に憑依した霊はミアの母親だった…。 このように、軽率な若者たちがしっぺ返しをくらう姿はホラー映画ではおなじみの光景。そこで本稿では、軽はずみな行動が取り返しのつかない事態を招いていく…という状況を描いた作品たちを紹介しよう。 ■冷やかしのつもりが、奇祭の生贄に…『ミッドサマー』 日本でも話題を呼んだ同じくA24の『ミッドサマー』(19)は、遊び盛りの若者たちが人里離れた共同体で恐怖を味わう物語。ダニー(フローレンス・ピュー)ら大学生のグループは、夏至の祝祭のため帰郷する友人に同行し、スウェーデンの小さな集落に遊びに行くことにした。住人から歓迎された一行は、やがて世にも恐ろしい祝祭を体験する。 本作は民族固有の風習などを題材にした“フォークホラー”と呼ばれるサブジャンルに属する作品。監督は悪魔崇拝を描いた傑作『へレディタリー/継承』(18)で長編デビューしたアリ・アスターで、2作目が『ミッドサマー』、3作目となる『ボーはおそれている』(2024年2月16日公開)が日本上陸を控えている、ホラー界の新星だ。 厳格な暮らしをする共同体の祝祭に、パーティ気分で参加した若者たち。撮影が禁じられた聖典を隠し撮ったり、聖なる木に放尿をするなどタブーを犯しただけでなく、勝手に帰ろうとしただけで容赦なく罰が下される。彼らは言葉巧みに誘い込まれた、夏至祭のための生け贄だったのだ。 ホラー映画といえば暗く陰湿なロケーションが定番だが、本作の舞台は自然に囲まれた美しい高原地帯。しかも白夜のため夜でも薄明るいままと、ホラー感はほとんどゼロ。水彩画のようなコントラストの浅い映像も手伝って、時折挿入されるグロテスクなイメージも白日夢を見ているような奇妙な感覚に襲われる。じわじわと不条理な怖さが押し寄せてくる技ありの作品だ。 ■強盗に押し入った先にいたのは、殺しのプロ!『ドント・ブリーズ』 『ドント・ブリーズ』(16)は独居老人宅に侵入した窃盗仲間の若者たちが逆に命をねらわれる話だ。10代の少女ロッキー(ジェーン・レヴィ)は、幼い妹を連れネグレクトの母から逃げることを夢見ていた。大金を持つ盲目の老人(スティーブン・ラング)の存在を知った彼女と2人の空き巣仲間は、深夜に老人宅に侵入。ところが家主は戦場を経験した退役軍人で、研ぎ澄まされた感覚の持ち主だった。 監督はサム・ライミの代表作をリメイクした『死霊のはらわた』(13)で絶賛されたフェデ・アルバレス。本作は彼の2本目の長編で、ライミがプロデュースを務めている。物語の舞台はデトロイト市の寂れた地区。ライミの故郷であるデトロイトは50年代より自動車産業の中心地として栄えていたが、アジア車の進出などにより財政が悪化し、2013年に市は破産を申請した。老人が住むのは空き家が並ぶ過疎地で、ギャングが廃工場を裏取引の場にするなど荒廃した町の状況が伺える。 そんなデトロイトでどん底の暮らしをする小悪党が目をつけたのは、盲目とはいえ元殺しのプロフェッショナル。侵入を気づかれた仲間の一人が拳銃を抜いて威嚇すると、老人は瞬時に銃を奪って少年を射殺。それを機にロッキーは狩られる側として狭い家の中を逃げ惑う。タイトルを直訳すると「息を止めろ」。音や気配を頼りに迫り来る老人と、その真横で息を殺して立ち尽くすロッキーたちの攻防戦は、息苦しくなるほどスリリング。ショートカットで成功を求めた者たちは、あまりに大きな代償を払わされる。中盤以降の思いがけない展開を含め、パンチの効いたスリラーだ。 ■実在する心霊スポットで、若者たちが次々に死亡『犬鳴村』 肝試しが夏の風物詩とし親しまれてきた日本。動画配信サイトの普及によって、廃墟や心霊スポット探検はますます盛んになっている。そんななかで登場した『犬鳴村』(20)は福岡家に実在する心霊スポット“旧犬鳴トンネル”を題材にした心霊ホラーだ。YouTuberのアッキーナこと明菜(大谷凜香)と恋人の悠真(坂東龍汰)は都市伝説の真偽を確かめるため、地図から消された犬鳴村に迷い込む。それを機に、悠真の妹で霊感の強い奏(三吉彩花)の周囲では次々と人が死んでいく。 犬鳴村は昭和初期まで存在していたと言われる幻の村。独特の風習のため周囲から忌み嫌われていた村人たちは、陰謀によって廃村へと追い込まれる。明菜たちの犬鳴村行きを機に、町には村人たちの霊があふれ出る。本作はフォークホラーと心霊ホラーの合わせ技。深夜2時に電話が鳴る呪われた電話ボックス、普段は封鎖されているのに突然口を開けるトンネル、犬のように暴れだす狂った人々など定番要素が盛り込まれ、肝試しに訪れた若者たちは携帯で会話しながら自殺をしたり、水もないのに水死するなど、死に様もユニークだ。 監督は「呪怨」シリーズや『ホムンクルス』(21)など数々のホラーやスリラーを手掛けてきた清水崇。時間や空間を操りながら幻想世界を生みだす手腕は本作でも冴え、現在と過去を結んだ因果のドラマを展開する。映画は口コミで話題呼び「恐怖の村」シリーズに発展。大谷演じるアッキーナ(と思わしき人物)は第2弾『樹海村』(21)、第3弾『牛首村』(22)にも登場し、前者では富士の樹海に迷い込んでいた。 ■住んでしまったら、最後…『事故物件 恐い間取り』 自殺や殺人、孤独死など、住人が不自然な形で最期を迎えた住居を指す事故物件。『事故物件 恐い間取り』(20)は、そんな“よくない部屋”を題材にしたホラー映画だ。10年続いた中井(瀬戸康史)とのお笑いコンビを解消し、ピン芸人になった山野ヤマメ(亀梨和也)は、番組の企画のため事故物件での暮らしをスタートする。次々と事故物件を渡り歩く山野はしだいに体調に異変をきたし、周囲でも不可解な現象が起きていく。 本作は「事故物件住みます芸人」として活動しているピン芸人、松原タニシのドキュメント小説がモチーフ。Jホラーの起爆剤「リング」シリーズでワールドワイドな人気を誇る中田秀夫が監督を務めている。『クロユリ団地』(13)では事故物件の後片付けをする特殊清掃員を描いていた中田監督だが、本作では売れるために危険に飛び込む芸人をコミカルなタッチを交えて描写。クライマックスでは怨霊とのバトルを繰り広げるなど、怖いだけでないエンタメ作に仕上げている。一方で、裏方として事故物件暮らしをサポートしていた中井が「たくさん霊が出ますように」と願掛けする姿が笑いを誘うが、やがて彼の家族が不幸に見舞われていく展開にゾッとさせられる。 ■SNS時代に放たれた、新感覚の“バチアタリ”『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』 SNSや動画配信サイトが若者のなかで当たり前になったことで登場したのが、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』だ。本作で長編監督デビューを飾ったのは、登録者数682万人(2023年12月7日現在)の YouTubeチャンネル「RACKARACKA」を主宰する双子のダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟。本国オーストラリアに続きアメリカでも高い評価を受け、続編『Talk 2 Me』の製作が決定。人気ゲーム「ストリートファイター」実写版の監督にも抜擢されるなど熱い注目を浴びている。 憑依といえばシリアスで緊張感あふれる儀式が思い浮かぶが、本作ではパーティの一環として描かれる。ここでの憑依は、アルコールやドラッグの代用なのだ。霊に体や心を乗っ取られおかしな言動をするさまを若者たちは熱狂しながら鑑賞し、なんとバチアタリなことに写真や動画を撮影し加工。仲間内でリアルタイムにシェアしながら大声で笑いあう。 しかし、度がすぎたパーティにはやがて暗雲が立ち込める。ライリーに憑依した霊はミアの母を名乗り、なにかを訴えるように彼女に語りかける。彼女に支配されたライリーは、突発的に頭をテーブルに叩きつけるなど容赦なく自分を傷つけていく。10代半ばの少年が凄まじい勢いで死のうともがく光景は衝撃的だ。 好奇心を持つことは大切なことだが、節度をわきまえないと大ケガをするのは現実も同じこと。ただし後先考えず行動できるのは若者の特権でもある。フィクションの世界に限って言えば、無謀でやんちゃな彼らのような“バチアタリ”なキャラクターこそが、ホラー映画に欠かせない要素だと言えるだろう。 文/神武団四郎