【舛添直言】「支持率低調」岸田首相と「再選不透明」バイデンの首脳会談当日に馬英九との会談ぶつけた習近平の思惑
(舛添 要一:国際政治学者) 4月10日、岸田首相は訪米し、ワシントンでバイデン大統領と首脳会談を行った。この日、韓国では総選挙が行われ、与党が惨敗した。北京では、台湾の国民党の馬英九総統が習近平国家主席と会談した。国際社会の構造は大きく変化しつつある。このパワーバランスの変化をしっかりと把握しなければならない。 ■ 日米同盟の強化 支持率の低迷に苦慮する岸田首相にとっては、日米首脳会談で成果を上げ、流れを逆転し、支持率回復につながることを期待したいところである。 日米首脳会談の最大の成果は、両国の防衛協力を推進し、同盟強化を決定したことである。共同声明は、「日米及び世界のために、複雑に絡み合う課題に対処できるグローバル・パートナー」と日米同盟を規定し、「日米同盟は前例のない高みに到達した。あらゆる領域・レベルで協働している」と強調した。 とくに安全保障面での協力強化が重要で、日米両軍の間で指揮統制の連携強化を図る。自衛隊は部隊を一元的に運用するために統合作戦司令部を新設するが、在日米軍もそれに対応する体制を整備する。その結果、日米両軍の統合がさらに進むことになる。 自衛隊は来年度に巡航ミサイルのトマホークを導入するし、米軍は今年、アジア太平洋地域に中距離ミサイルを配備する。両軍の指揮系統の統合が不可欠となっていく。 また、「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)」を新設するが、これは防衛装備品の共同開発や共同生産などに関する協議体である。定期的に協議して、ミサイルの共同開発、米軍の航空機や艦艇の日本での補修などを進める。
簡単にまとめれば、日米両軍の統合運用をさらに進めるということであり、自衛のためのみの軍事力という従来の憲法9条解釈を大きく逸脱することになる。それは、武器輸出についても言えることであり、イギリス、イタリアと共同開発している戦闘機の輸出は、自公政権は既に認めることにしている。 戦後の安全保障に関する議論、憲法改正などに、学者として、また政治家として積極的に関わった立場からすると、まさに隔世の感がする。日本も、やっと「普通の国」になったようである。 その背景には、ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの戦闘など緊迫した国際情勢がある。十分な武力がなければ国家や国民を守ることができない現実を毎日のように見せられると、さすがの「極楽とんぼ」も空想的ユートピアにふけっているわけにはいかなくなったようだ。 しかし、国会やマスコミで十分に議論されることもなく、既成事実だけが進んでいくことには、一抹の不安を感じざるをえない。憲法9条を改正しないまま、日米両軍の一体化をこれ以上進めるのは限界があるのではないか。 ■ 主敵は中国 日米両軍の統合運用強化は、中国を念頭に置いたものである。ウクライナではロシアとNATOが対峙しているが、アジアでアメリカが牽制すべき大国は中国である。 台湾有事となれば、在日米軍が出動する。自衛隊もその支援に当たることになる。指揮統制面での両軍の協力は不可欠である。日米首脳会談では、人工知能(AI)やサイバー分野で、アメリカ、イギリス、オーストラリアから成るAUKUSと日本が協力することがうたわれた。 さらに、日米は、オーストラリア、インドと協力するQuadという枠組みを持っているが、これをさらに深化させる。また、日米両国が韓国、フィリピンとの協力関係も強化し、中国の脅威に対抗するために抑止力を強化する統合抑止戦略を展開する。今回は、日米フィリピンの首脳会談が行われ、南シナ海における中国の行動に最大限の注意を払うことで合意した。 経済分野では、風力発電、太陽光パネル、電気自動車など、脱炭素関連産業における中国の世界支配に対抗するために、日米両国が脱中国を図ることを模索する。具体的には、風車を海面に浮かべて発電する「浮体式洋上風力発電」や「ペロブスカイト太陽電池」などの開発を共同支援する。 また、次世代の原子炉や半導体、さらに水素分野でも協力することが決まった。そして、AIなどの先端技術での協力、非先端半導体や蓄電池などの戦略物資について中国依存を減らすための取り組みなどについても協議された。