「難民」から「留学生」、そして「高度人材」へ:シリア人エンジニアが日本で目指していること
国際協力機構(JICA)は、「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム(JISR)」の下で、2017年からシリア難民を留学生として受け入れている。修士課程修了まで最大3年間支援するプログラムで、修了生の多くは日本企業に就職して活躍中だ。その1人、ITエンジニアのイスカンダー・サラマさんに話を聞いた。
家族帯同も可能
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、13年間内戦下にあるシリアでは「世界最大の難民危機」が続いており、国内外で1380万人が避難を強いられている(2024年5月時点)。国外に逃れた約640万人の大半はトルコ、レバノン、ヨルダンなど近隣諸国で暮らしているが、ドイツやスウェーデンをはじめとする欧米各国も、数千から数十万人の規模でシリア難民を受け入れている。 日本は2023年、過去最多の難民認定者数を2年続けて更新したものの、その数は303人、難民認定率は約2%で、諸外国に比べると極めて低い。23年に限れば、シリア出身の難民認定者はたった1人だ(「人道的配慮」で在留を認められたのは17人)。 「難民鎖国」といわれるゆえんだが、難民政策にはさまざまな争点があり、一足飛びには変わらない。だからこそ、難民認定とは違うアプローチで受け入れる選択肢が必要だ。その1つとして、「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム(JISR)」は着実な成果を上げている。 JICAが運営する同プログラムでは、レバノンやヨルダンでUNHCRによって難民と確認されたシリアの若者を留学生として受け入れ、1年間の日本語研修を経て、日本の大学で2年間の修士課程修了まで支援する。対象者の専攻分野は工学、情報通信、経営学、保健学などが中心だ。家族帯同も可能で、渡航費、授業料、生活費に加え、家族手当も支給。修士課程在学中に企業のインターンシップに参加することもできる。受け入れを開始した2017年以降、79人が来日。現時点でJISR修了生は50人を超え、その多くが日本で就職している。