「どこでも通用するスキル」を望む若者が増加、キャリア感が多様化している背景とは
また、総務省の『令和4年就業構造基本調査』によると、副業がある人は2022年に約305万人と、10年前と比べ約90万人増加しています(本業が農業・林業の人を除く人数)。さらに、リクルートの『兼業・副業に関する動向調査』では、副業や兼業をしている方やしたことがある方にきっかけを聞いたところ「すでに兼業・副業をしている人が身近にいた」が最も多く、次いで「自分のキャリアを見つめ直した」となっています。このように、副業や兼業を選択肢として考え、実際に従事する人は増加傾向にあります。 これらの調査から、1社に限定せず複数の企業を経験して、多様なキャリアを志向する人が多くなっていることがわかります。こういった志向の変化が、どこに行っても通用する汎用的なスキルを身につけたいと希望する個人が増えている理由の一つではないかと考えられます。 ● 変化する日本的雇用慣行 個人のキャリアへのスタンスに影響 企業側の変化についても見ていきましょう。一般的に日本的雇用慣行は終身雇用、年功序列、企業別組合の「三種の神器」と表されます。このような雇用慣行は、高度経済成長期には非常に有効に機能し、世界的にも「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と高く評価されていました。 しかし、経済が低成長を続け、グローバル化の波が押し寄せる中で、従来の雇用慣行では変化への適応スピードが遅くなってしまうことに、多くの企業が危機感を抱いています。 実際、リクルートの『企業の人材マネジメントに関する調査』では、61.5%の企業が人事制度・雇用慣行を変える必要性を感じていることがわかります。働く個人の価値観の変化に合わせて、転勤なし、短時間勤務、週休3日制のような柔軟な働き方を導入している企業も増えています。
激しい環境変化の中で、企業にとって終身雇用を保障することはますます難しくなっています。個人にとってみると、「新入社員として企業などに入社すれば一生安泰」とは言いづらい時代であり、従来のように一社に忠誠を尽くしても、それに見合うリターンを得られるかどうかも不透明です。 このような状況の中で、個人は一つの企業内で通用するスキルを高めることでキャリアを形成していくスタイルから、複数の企業や副業などの経験を重ねてキャリア形成していくスタイルに変わりつつあるのではないでしょうか。 ● 働く価値観は多様化 企業独自の特殊能力を身に付けたい人も 「どこの会社に行ってもある程度通用するような汎用的な能力」を支持する学生が増えている一方で、「その会社に属していてこそ役に立つ企業独自の特殊な能力が身につく」ことを望む学生は、約2割いることもわかっています。汎用的な能力を求めるという人が多数ではありますが、企業独自の特殊な能力を身につけたいという個人の価値観も存在していることも見落としてはいけません。このように働く個人の価値観が多様化する中で、採用・雇用する企業側がその変化にどのように対応していくかは昨今の大きな課題です。 一部の企業では、成長やキャリアに対する多様なニーズに応えるために、柔軟な研修や配置・配属の在り方を模索する様子が見られます。研修面ではあらかじめ用意されたコース群から、個々人の志向や課題感によって自由に選択できる選択型研修を提供しているところもあります。 たとえば、大手電機メーカーでは、かつては企業主導で研修が用意され、そこに従業員が参加する形でしたが、現在ではプラットフォーム自体は会社側が用意しながらも、従業員自身がパフォーマンスを高めるために研修を選べるようになっています。別の会社でも、主体的に学びを得る機会として、階層別研修のほかに選抜型の研修や、従業員が必要なものを選んで勉強できる学びのプラットフォームの構築を進めています。 人材配置面では、社員が複数の部門や役割を経験することで、多様なスキルを身につけられるようなクロスアサインなどの取り組みが見られます。先ほどの大手電機メーカーでは、有志メンバーによるプロジェクトベースで、今の部署に所属しつつも新しい仕事にジョインできるような仕組みを設計。これにより、社員は異なる業務やチームで働く能力を養うことができるようになっています。