《三菱UFJ貸金庫事件》の犯人がついに実名逮捕…【メガバンクの実態】貸金庫業務の担当課を苦しめる「残酷なヒエラルキー」
三菱UFJ銀行の貸金庫から十数億円の顧客の金品が盗まれた事件で、警視庁は1月14日、元行員の今村由香理容疑者(46歳)を逮捕した。 【マンガ】工事現場の「交通誘導員」はいくら稼げる? 驚きの最高月収 犯行は2020年4月~2024年10月までの4年半にわたって行われ、被害に遭った顧客は約60人にものぼるとされる。盗んだ金塊を質店で現金化し、FXや競馬などに充てていたという。 今回警視庁は、今村容疑者が2024年9月、練馬支店内の顧客の貸金庫から約20キロの金塊(2億6000万円相当)を盗んだ疑いで逮捕した。 銀行ビジネスの根幹を揺るがした大事件が起こったことで、話題となった銀行の貸金庫。一般的に、メガバンクでは支店の窓口業務を担う部署が貸金庫業務を兼務するケースが多いという。 メガバンクM銀行に勤める現役行員・目黒冬弥さんが書いた『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ、2022年10月発行)は、そんな窓口業務を含む銀行の仕事の実態と悲哀を描き、発売されるや大きな話題となった。 銀行業の醍醐味、そして恥部とは――。 行員歴30年以上の目黒さんが目撃してきた、メガバンクの実情を紹介する(本書の一部を抜粋・再編集しています)。
エース営業マンのミス
下小岩支店で、預金担当課の課長として着任してから数カ月がすぎた。 「目黒課長、定期預金のオペレーションでミスが出ました」 午後、管理資料に目を通す私のところへ、課長代理の鈴木綾子さんが報告に来た。慌てている。 「午前中に菅平さんがお客さまを訪問し取り次いできた投信と定期預金のセット取引ですが、定期預金の金利優遇をしなければならないところ、店頭の基準金利で作成してしまいました」 菅平君は取引先課のエース営業マンだった。 当時、M銀行では個人のお客が投資信託を購入すると、同じ金額分の定期預金について金利を上乗せするキャンペーンを展開していた。菅平君は1名分の投資信託と定期預金を獲得したが、伝票の記入方法を間違えたため、定期預金金利の上乗せなしで処理されてしまった。 「起きてしまったものは仕方がない。お客さまにご迷惑をおかけする前にまず修正しよう」 「いえ、通帳をこちらがチェックする前に、急ぐからと菅平さんがお客さまのところに返しに出かけてしまいました」 「チェック前に持って行ったの?まずいな。それじゃあ、すぐ菅平君の携帯に電話して……」 鈴木さんがさえぎる。 「すでにお客さまに通帳を渡してしまって、金利が優遇されていないとお客さまが気づき、クレームになっているそうです」 顧客対応はスピードが重要だ。責任の追及よりも、まずお客の立腹を治めることを優先しなければならない。菅平君の直属の上司・取引先課の薮野課長のもとに走る。