マツダ・ロードスターはポルシェ911と双璧を成す存在になった
アシンメトリックLSDで走りはどう変わった?
そして今回の商品改良の最大のハイライトが、アシンメトリックLSDの採用である。従来型が搭載していたスーパーLSDは減速側も加速側も同じ差動制限力をもっていたが、アシンメトリックLSDは減速側の回転方向と加速側の回転方向で異なるカム角をもち、それぞれに最適な差動制限力を実現している。 この効果は絶大で、コーナーの進入でブレーキングにより積極的にフロントに荷重をかけるような場面でもリヤが不安定にならず余計な動きが出ない。だから不安なくラインをトレースすることだけに集中できる。 一方で面白いのは、立ち上がり時の効きは従来型と変わらないということ。アシンメトリックLSDの狙いが、あくまでコーナー進入(減速)時の安定感の向上にのみフォーカスしていることがうかがえる。減速時の効きを弱めてノーズの入りを良くし、加速時の効きを強めて高いトラクション効果を狙う1.5way式とは対照的であることが、あくまで人馬一体感を追求し続けるロードスターらしい姿勢だと感心させられた。 そして忘れてならないのは、2022年モデルより採用されているKPC(キネマティック ポスチャー コントロール)の存在だ。コーナリング時にイン側の後輪のブレーキをわずかにつまんで、リヤを安定させるシステムだが、これがまことに好ましい。モーターサイクルで、コーナリング時にリヤブレーキを軽く当ててリヤを安定させるテクニックに近い感覚で、4輪すべてがしっかり路面を捉え続けてくれるから安定感がすこぶる高いのだ。KPCによる重量増はまったくないとのことで、これぞロードスターに相応しいテクノロジーといえよう。 ちなみにアシンメトリックLSDも従来のスーパーLSDと重量はほぼ変わらない。ただ、これまでは1.5Lエンジン搭載車(つまりソフトトップ)と2.0Lエンジン搭載車(つまりRF)ではプロペラシャフト、ドライブシャフト、PPF(パワープラントフレーム)のサイズが微妙に異なっていたが、今回からは従来の2.0Lと同じサイズに統一された。1.5L用から2.0L用に変えたことによる重量増は、上記パーツをすべて合わせて2kgとのことだ。そしてつまり、RFに関してはアシンメトリックLSDへの進化に伴う重量増はゼロというわけだ。 それにしても、発売からもうすぐ9年が経つND型ロードスターに、まだこれほど進化の余地が残されていたとは心底驚かされた。そして、まだまだ熟成させ続けるマツダの姿勢にも感服せざるを得ない。 ピュアスポーツカーとしての高い完成度、ブレないフィロソフィー、長く輝かしい歴史とそれに伴うブランドイメージ、作り手の熱意、そして世界中のファンの存在……マツダ・ロードスターはポルシェ911に比肩する存在だ。今回の試乗で、その思いはさらに確固たるものになった。 ■マツダ・ロードスター S Leather Package V Selection 全長×全幅×全高:3915mm×1735mm×1235mm ホイールベース:2310mm 車両重量:1030kg エンジン形式:直列4気筒DOHC エンジン型式:P5-VP[RS]型 総排気量:1496cc ボア×ストローク:74.5mm×85.8mm 圧縮比:13.0 最高出力:100kW(136ps)/7000rpm 最大トルク:152Nm/4500rpm 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI) トランスミッション:6速MT サスペンション形式:Ⓕダブルウィッシュボーン Ⓡマルチリンク ブレーキ:Ⓕベンチレーテッドディスク Ⓡディスク タイヤサイズ:195/50R16 乗車定員:2名 WLTCモード燃費:16.8km/L 市街地モード燃費:11.9km/L 郊外モード燃費:17.6km/L 高速道路モード燃費:19.7km/L 車両価格:355万3000円
小泉 建治