【視点】台湾に新政権 中国は威嚇停止を
台湾の頼清徳氏が総統に就任し、新政権が発足した。民主的な選挙で選ばれた指導者であり、私たちの常識では、その正当性は揺るがない。新たなリーダーに祝意を表したい。 沖縄県民にとって、台湾を巡る最大の関心事は、今後中国がどう出るのか、懸念されている「台湾有事」は起こるのか、に尽きる。中台関係に関し、頼政権が「現状維持」を表明していることを踏まえれば、台湾海峡の平和と安定は中国の決心一つにかかっていると言える。 中国が責任ある大国を自称するならば、沖縄県民をはじめとする周辺諸国・地域の人々の平和への願いに応えなくてはならない。台湾周辺で活発化させている軍事的行為、武力を背景にした威嚇をただちに停止すべきだ。 八重山と台湾は距離が近く、文字通り一衣帯水の間柄だ。石垣市は蘇墺鎮、与那国町は花蓮市と姉妹提携しており、積年の交流がある。 ただ台湾のトップである総統がどういう人物かは、なかなか知る機会がない。 頼氏は炭鉱労働者の父を鉱山事故で亡くし、母子家庭で育った苦労人だ。台湾、米国の大学を出て医師にとなり、立法委員(国会議員)、台南市長、行政院長(首相)、副総統を歴任した。 親日派として知られ、2022年には現職の副総統として初めて来日し、安倍晋三元首相の葬儀に参列した。 蔡英文前総統は、たびたびSNSで日本語のメッセージを発信するなど、対日関係を重視する姿勢を示していた。頼政権も、日米との連携を強化する路線を継続することになる。 台湾は親日というイメージが強いが、民進党政権はともかく、国民党政権の時代には尖閣諸島問題で日本との対立が先鋭化したこともある。台湾に限らず、どの国・地域も自身の利益と合致する限りの「親日」であることは理解する必要がある。 それでも、民主主義体制の台湾が巨大な独裁国家・中国と沖縄の間に存在し、緩衝地帯としての役割を果たすことは、とりわけ沖縄にとって死活的に重要である。 安倍元首相の「台湾有事は日本有事」という言葉はしばしば曲解されたり、特に沖縄では反基地派から非難されたりするが、結局のところは厳然たる事実だ。とりわけ、それを肌で実感しているのが八重山住民だろう。 中国の呉江浩(ご・こうこう)駐日大使は20日、中国の分裂に加担すれば「日本の民衆が火の中に引きずり込まれる」と発言した。 日本が台湾問題に関与すれば、一般の日本人に無差別攻撃を仕掛けるという脅迫にしか聞こえない。しかもこの発言は、就任直後の昨年4月に次いで2回目だ。 前回も日本国内から厳しい批判を浴び、日本政府も抗議した。にもかかわらず今回、呉氏は流ちょうで明確な日本語を使い、あえてこの言葉を発した。その内容は、まぎれもない中国政府の意思であると受け取るほかない。 習近平政権は22年、台湾を包囲した軍事演習で与那国島、波照間島周辺に弾道ミサイルを撃ち込み、公然と沖縄県民を威圧した経緯がある。 脅迫者が国際社会で尊敬されることはなく、ましてや日本人の信頼を得ることは不可能だ。尖閣諸島周辺での振る舞いを見れば、八重山住民は中国の現体制に嫌悪感しかない。脅威から八重山を守るには、自衛隊の強化による抑止力の充実が最も現実的な政策である。