波の花、どこに咲く? 海岸隆起で定番スポット異変
●千枚田前の岩場、一面に泡 ●奥能登、冬の風物詩 地震、豪雨と大災害が相次いだ奥能登で、冬の風物詩「波の花」に異変が生じている。これまであまり見られなかった輪島市白米(しろよね)町の「白米千枚田」では、地震で隆起した岩場一面に白い泡が出現。その様子を撮影した人は「あんな光景は初めて」と驚きを隠さない。一方、地形の変化で泡を見るのが難しくなった定番スポットもあり、住民は「波の花の名所まで変わってしまうのか」と震災の爪痕の深さを改めて痛感している。 公務員の川口喜仙(よしのり)さん(60)=金沢市=は今月20日、実家の近くにある千枚田を訪れ、目を疑った。棚田前の岩場が白い泡で覆われ、時折、風にあおられてぼたん雪のように舞っていた。 千枚田は海沿いに擁壁が整備されており、地震前は波がもまれる岩場が少なく、波の花の出現は珍しかった。しかし、大地震による海底の隆起で新たに岩場ができたことから、川口さんは「波の花が発生しやすい環境になったのではないか」と推測する。 目の前に広がる光景に驚き、思わずシャッターを切ったという川口さんは「子どもの頃から千枚田を見てきたが、あんな光景は初めてやった」と話した。 波の花は北寄りの季節風が強い日、岩場に打ち寄せる波がつくり出す現象で、海中の植物性プランクトンの粘液がもまれて泡状になる。冷え込みが厳しいほど大きな塊になりやすいとされる。 能登半島北部では、千枚田から約1・5キロ東にある名舟漁港(輪島市)や曽々木海岸(同)、大谷地区(珠洲市)の一帯が波の花の名所として知られる。しかし、いずれも地震で岩場が広がり、海までの距離が数十メートル遠くなったことで、波の花を間近で楽しむことができなくなった。 名舟漁港は、港内で波の花を見られるとして人気だったが、地震で漁港自体が隆起したため、波の花の発生は難しいとみられる。川口さんは、元日の地震で曽々木海岸の窓岩が崩れるなど多くの景勝地が被害を受けたことに触れ、「能登の海岸の風景は一変した。波の花はこの冬、どこに出るんやろう」と話した。 ●専門家「海藻も影響」 波の花に詳しい東大大気海洋研究所の濵﨑恒二教授によると、波の花は▽海が激しく攪拌(かくはん)される(かき混ぜられる)▽海水中の有機物(海藻から分泌されるネバネバ)濃度が高い―の2条件がそろうと発生しやすい。 このため、海岸の隆起で海藻の生息地が干上がるなどした場合、有機物濃度が低下したり、攪拌の力が弱まったりして泡が発生しなくなる可能性があるという。逆に、海底の地形変化で攪拌の力が強くなれば、波の花が生まれやすくなることも考えられるという。