『フリースタイル日本統一』#13ーー“名パンチライン”誕生も最強の前では為す術なし
2023年10月より放送中の『フリースタイル日本統一』(テレビ朝日/ABEMA)。同番組では、全国16地区で活躍するラッパーが3名1組となって、それぞれの地元の威信を賭けてフリースタイルバトルに挑戦。勝利チームは敗退チームから好きなラッパー1名を吸収し、最終的に日本統一を果たすと、その暁として賞金100万円が贈られる。 【写真】TEAM神奈川で初陣を飾るFORKとTEAM埼玉として戦う晋平太 以下より、1月9日に公開された【#13】のハイライトを振り返っていく。細かなネタバレもあるためご注意いただきたい。 ・FORK、K-rushを相手に理路整然なラップを披露「俺23年ぐらいやっての2年前」 前回の【#12】に引き続き、TEAM埼玉(K-rush×TKda黒ぶち×崇勲×晋平太)とTEAM神奈川(FORK×句潤×SANTAWORLDVIEW×輪入道)が対戦中。3ラウンドを終えて、戦況はほぼ互角。ここでいよいよ、TEAM神奈川から大黒柱であるFORK(ICE BAHN)が初陣を飾った。 2023年のラストオンエアから、FORKの登場を待ち望んでいた視聴者も多かったはず。期待感を膨らませての年跨ぎとなったが、こちらを待たせてくればくるほど、FORKは何倍にだって気持ちのよい極上のライムを届けてくる。現に、このバトルでも片手では足りず、諸手を上げて“天晴れ”とのけぞってしまうような名ラインを落としまくってくれた。 FORK:やっと出番が来たな また地上波でやれるなんてな アンテナ高く嗅ぎつけた奴ら これが答えだぜ 目に焼き付けな やる以上は頂点を目指す 有頂天じゃねぇ 無条件に勝つ自信がある 句読点なんてシカトする プノンペンぐらいまで吹っ飛ぶ 部門別に見ても俺がトップしてる K-rush:だけど先攻 渡して何 言うかと思ったら テレビの犬になってやがったよ FORK:初めまして テレビの犬 2021年KOK獲っている それが証拠 K-rush:今出したのがバックボーン 2021年のチャンプ?今 23年ですけど FORK:23年 2年前 俺23年ぐらいやっての2年前 結機近くない?ダメかなこれ言っちゃ 先攻はFORK、ビートはWILYWNKA「Kill Me」。初陣記念に、1stバースは丸々引用させてもらった。自身所属のクルー=ICE BAHNが掲げる“ライム至上主義”。その看板に恥じぬべく、〈嗅ぎつけた〉や〈頂点〉などの言葉を始まりに、5文字以上の高難度なライムを涼しい顔で踏み倒すFORK。特に後者は、無条件 → 句読点 → プノンペンで終わりそうなところを、最後に〈部門別〉でもうひと押ししてくるのが恐ろしい。 FORKのラップ特有のこの感覚。決して言葉を詰めるのではなく、まるで平泳ぎのように流れるような余裕さ。違う角度から言語化を図るならば、まるで傷口に塩を塗り込むように、ライムを叩き込むのではなく、鼓膜にじっとりと塗り込まれるような感覚に近い。 また、理路整然な語り口も、彼の冷静さを際立たせるところ。少し話は逸れるが、かつて『フリースタイルダンジョン』にて、T-Pablow(BAD HOP)が呂布カルマと対戦した際、当時21歳だったT-Pablowより、呂布カルマの方が12歳上だったことから、逆に自身より12歳下の9歳に向かって「言葉の重みがねぇ」とは言わないと指摘をしていた。当たり前すぎるからだ。フリースタイルバトルの最中、即興でラップの言葉を生み出しながら、同時に平時であれば簡単ながらも、ラップ中には難易度が高く感じるだろう計算をする、二軸の頭脳を使っていた場面。あの場面が思い出された。 今回のFORKでいえば、番組収録をした2023年の2年前に取った杵柄をいつまで誇らしくするのだと主張されたが、たった2、3年のキャリアしかないラッパーが数年前の過去にすがっているのでは決してなく、〈23年ぐらいやっての2年前〉と、ベテランの目線で見ればついこの間のトピックだと正論であしらう。熱さで押したK-rushのラップに対して、冷静な視点がますます印象付けられた上に、〈23年ぐらいやって〉の部分も前述したような流れるような聞き心地で、親が子どもに説くような説得力すら見出せてしまう。 ・晋平太&TKda黒ぶち、背水の陣を覆せるか? 結果は4-1で、FORKが勝利。その後もTEAM埼玉より、3番手の晋平太を5-0の圧勝で、大将のTKda黒ぶちは3-2の接戦を制し、初陣ながら綺麗に“3タテ”。料理長ならぬ“板前”の仕事ぶりで、気づいたときにはTEAM神奈川が勝利を収めていた。 言わずもがな、無敵のフリースタイラーの異名をとる晋平太と、ベテランMCかつ、ここぞという場面に強いTKda黒ぶちのこと。彼らが弱かったわけではまったくない。しかもそれぞれ、晋平太は〈045 四の五の言えんぞ 042の前 ジ・エンド〉〈俺が伝説のゴールデンマイク どう生きてきたか説明不要〉、TKda黒ぶちも〈どう生きてきたか説明不要 教科書を捨てるだけが美学じゃない 俺はこのHIP HOPの文化にBig upしたい〉〈ルートがある 点と点が線となる瞬間 俺のスタイルはセントラルな言語学さ〉と、それぞれのスタンスがハッキリと伝わる名パンチラインを刻み込んでいる。それなのに、だ。 ラップにおけるフロウは、音源よりもバトルでの方がパターン化もイメージもされやすいものだが、そうはいっても書き起こした文字面を眺めただけで、これほどフロウが思い浮かぶ内容も多くはない。晋平太もTKda黒ぶちも、そこに込めた熱量すら伝わってくるくらいだ。ただ、もう一度だけ言う。相手は最強の板前。FORKが織りなすフリースタイルの太い幹を、今回は根っこから引き抜くこと叶わず、ともに敗退となった。 結果、TEAM神奈川は崇勲を吸収(ちなみに崇勲は埼玉だが、奥さまは横浜出身らしい)。同チームはまたしても、“最強の保険”に追加加入する順風満帆な次戦進出を決めた。
一条皓太