【インドネシア】結核対策、日本企業が支援 患者数は世界2位、30年に撲滅へ
インドネシアは世界三大感染症(エイズ、結核、マラリア)のうち、結核の罹患(りかん)者が世界で2番目に多く、日本企業が撲滅に向けて支援を続けている。富士フイルムはこのほど、インドネシアでこれまで進めてきた協力を拡大するために同国保健省と覚書を締結。大塚製薬は現地企業とともに各職場での結核撲滅に向けて数年前から活動を推進している。持続可能な開発目標(SDGs)でも結核を2030年に撲滅することを目指しており、日本企業がハード、ソフトの両面で貢献することが期待される。 富士フイルムホールディングスの後藤禎一社長が8月21日、首都ジャカルタを訪れ、現地法人の富士フイルムインドネシアと保健省による結核撲滅に向けた連携に関する覚書の締結に立ち会った。覚書には連携の3本柱として、◇医療機器やITの教育◇検診のデジタル化推進◇検診普及に向けた啓発活動の共同推進――を盛り込んだ。 富士フイルムインドネシアは、超軽量の携帯型X線撮影装置「FDR Xair」と人工知能(AI)技術を用いた診断支援ソフトウエアをインドネシアの病院に22年に納入して以来、保健所や結核撲滅運動を展開する民間団体とともに、同装置を使った結核検診を実施してきた。 保健省との覚書締結を機に、単に医療装置の納入だけではなく、適切な使用方法やITソリューションを公立病院や保健所の医療従事者に教育する。また、地域単位での感染拡大の防止に向けて各地で撮影された検診結果のデジタル画像を、保健省本庁で総合的に管理できるようなシステム構築に向けて協議する。 後藤氏はNNAに対し、今回の覚書締結によって、保健省に対してより包括的な支援ができるようになると説明。具体的には、X線撮影装置の使い方などの知識を広めることで放射線技能者を育成し、検診の質向上につなげられると述べた。 保健省では現在、FDR Xairを36台保有している。アラブ首長国連邦(UAE)からの支援で提供されたもので、同省は今月から全国各地で本格的に活用を推進していく。ブディ保健相は、全土にある公立施設を活用した大規模なスクリーニングの重要性を示した上で、特に結核感染者の多い優先地域を中心に、FDR Xairを配置していくと表明。具体的にはジャカルタ特別州、西ジャワ州、東ジャワ州、バンテン州などを挙げた。 ■早期発見、治療開始につなげる 世界保健機関(WHO)の「世界結核リポート2023」によると、世界では22年に約1,060万人が結核に罹患し、年間130万人が命を落としている。インドネシアの結核症例数は年間106万人とインドに次いで2番目に多く、死亡者数は13万4,000人に上ると推定されている。 一方、インドネシア保健省によれば、23年は82万1,200人の結核症例を確認した。治療を受けた結核患者数はうち 86%に達しており、目標水準の90%に近づきつつあるとしている。ブディ保健相は「結核症例が発見されれば、直ちに治療できる」と述べ、早期発見につながる検診の重要性を強調し、今年は90万人の感染者発見に意気込みを示した。 結核は無症状の感染者もいるため、大規模なスクリーニング検査で早期に発見し、早期治療につなげることが重要となる。富士フイルムの後藤氏は、「開発途上国では、医療機関の不足や、交通インフラが十分に整備されていないために、結核罹患者がタイムリーに適切な検査・治療を受けられないケースが多いという課題を抱えている」と指摘。小型で軽量なFDR Xairは簡単に持ち運びできる上、バッテリー内蔵式で電力インフラが不安定なへき地でも使えると利点を強調した。 ■大塚製薬は職場での撲滅支援 一方、大塚製薬はインドネシアで22年から、現地で事業展開する企業とともに「職場での結核撲滅プログラム」を推進してきた。参加企業は初年度の9社から、23年に22社が加わり、現在は合計64社まで拡大している。 8月上旬に保健省が「こどもの日」を記念して西ジャワ州バンドンで開催したイベントで、大塚製薬のインドネシア子会社2社が、同プログラムの新規協力会社と署名を交わした。 同プログラムは、医薬品や医療機器の製造販売を手がける大塚インドネシアと、「ポカリスエット」をはじめ健康食品・健康飲料を製造販売するアメルタインダ大塚の2社が進めてきた。参加企業は従業員の健康診断で、結核スクリーニング検査を実施する。 陽性と診断された患者の治療費はインドネシア政府が負担する。一方で大塚グループの2社は患者の完治に向けて、患者とその家族向けに栄養食品を配布したり、プログラムの参加企業の従業員や家族を対象とした結核に関する啓発セミナーを実施したりする。また、講演する医師や栄養士の招聘(しょうへい)や、コンサルティングにかかる費用を負担するなどのサポートを提供して、患者が完治するまで支援する。 これまでに延べ16万1,004人が検査を受けた。104人の結核罹患が確認され、62人が完治し、42人が治療を継続している。