『いちばんすきな花』今田美桜の“光と影”は『おかえりモネ』でも 夜々役への深い解釈
強い光があれば、そこには必ず影が存在する。『いちばんすきな花』(フジテレビ系)で深雪夜々を演じる今田美桜の芝居を見ているとそんなことを考えてしまう。 【写真】美容院で二人きりになった夜々(今田美桜)と椿(松下洸平) 今田と言えば、どんな役を思い浮かべるだろうか。『花のち晴れ~花男 Next Season~』(TBS系)での二次元から飛び出てきたような高めツインテールが印象的な真矢愛莉役だろうか、それとも『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)の女王様気質な女子のリーダー・諏訪唯月役だろうか。最近では、『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(日本テレビ系)での健気さが愛らしい田中麻理鈴役や、『トリリオンゲーム』(TBS系)での現実離れした美しさを持つ社長令嬢・黒龍キリカ役も記憶に新しい。 いずれの役もその場にいるだけで強い光を放つような存在感があった。それは今田自身がもつ存在感と役柄が合わさることによって、強い求心力を生み出していたのだ。その今田が“目立つ女性”としての立ち位置を周りから押し付けられる夜々を演じることで、生みだされる負の感情にも説得力を出している。 『いちばんすきな花』で今田が演じる夜々は、その見た目の良さから“注目される存在”として扱われてきた。自分はその扱いを望んでいないのに。母親からはズボンを履くことも、将棋を指すことも許されず、ピンクの服とお人形を与えられて典型的な女の子の枠に抑え込まれてきた。夜々自身も、母親から望まれる女の子でいなければならないと、自分の感情をしまい込んできた。 そして夜々と母親の間にある複雑な親子関係が描かれた第4話。母に話しかけられれば、目を輝かせて高い声を出し、会話が終わればスイッチを切る。本当の自分と母が望む自分を切り替える芝居、その苦々しさがわかる親子の会話は、まさしく夜々の中にある影が凝縮されていた。学生時代の文化祭、美容室への入社時、「お人形」として周りが望む女の子を演じるひきつった笑顔には、目立つ存在として羨ましがられるからこその闇が表れていた。 そんな夜々は、ゆくえ(多部未華子)や椿(松下洸平)、紅葉(神尾楓珠)との出会いにより、自分らしさを解放できるようになる。ずっと母が望む女の子を演じてきた夜々が、母親に想いをぶつけるのはとても勇気が必要なはずだ。相手が望む自分の姿を敏感に感じてしまう優しさがあるからこそ、自分の負の感情に蓋をして生きてきた。自分を出せないことは苦しいけど、母のことは嫌いになれない。大切な母だからこそ、自分を理解してほしい。光と影の間で葛藤し涙をこぼす夜々の姿に、今田による役への深い解釈が感じられた。 NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』でも、いるだけで目を引いてしまうために「かわいい女の子」として扱われ、キャリアに対して悩みを抱える神野マリアンナ莉子を演じていた。マリアンナは突破口を見出そうともがく強さを持ちながら、悩みを抱えて葛藤する弱さもあった。今田の光と影を感じさせる芝居は、一見現実離れしたマリアンナの存在を立体的にしていたのだ。 今田は役柄の光と影のコントラストを自然に、それでいてくっきりと表現し、役柄を立体的に浮かび上がらせることが巧い。どんなに目立つ人物であっても、悩みがない人間なんていない。役の心情を深く理解し、負の感情とそこにある葛藤をリアルに表現する今田の存在は、繊細な心の機微を描く『いちばんすきな花』には欠かせないだろう。
古澤椋子