柴咲コウ「快晴より曇天が好き」「ミステリーが大好物」。正解がわからないまま演じた『蛇の道』
正解がわからないままに演じた
小夜子がなぜアルベールの復讐を手伝うのか、その理由は明かされないまま物語は進む。暴力の渦のなかで虚無的に思えるほどに、淡々と自分の仕事をこなしていく小夜子。 初めて黒沢監督に会ったとき、「なぜ自分が小夜子なのか」と尋ねたという。 「そのときは、目の印象で決めたというようなことをおっしゃっていました。それ以外の説明はあまりなかったと記憶しています。 そのあと、フランスでのクランクインの直前にスタッフみんなで食事したときにも同じようなことを訊いたんです。なぜ私なのか、どういう映画にしたいのか、さらにはなぜ映画を撮るのか、みたいな本質的なことまで踏み込んでしまった。 あとで考えたら“やっちゃったな”って(笑)。 私としては、監督の意志を汲み取り、それを体現したいという気持ちだったんですけど、監督は演じる前の私に、なにも与えたくなかったんだと思います。 撮影も計画的だったり、突発的だったり、いろいろあったんです。だから私だけでなく他の俳優も、なにが正解なのかわからず、手探りで演じるしかない。 その無様さがリアルだったり、人間臭かったりする。監督が正解を示してくれなかったからこその作品ができあがっているように思います」
フランス語の発音が気になって……
小夜子は10年間フランスで生活してきたという設定だ。柴咲は、半年間懸命に勉強したというフランス語で見事に演じている。 「フランス語をちゃんと発音できているかどうかばかりが気になってしまって、作品を客観的に観ることができないんです。 フランス人スタッフが観て、ひっかかるところはなかったって言ってもらえたので少しホッとしたんですが、観ているとやっぱり自分の発音ばかり追いかけてしまう(笑)」 当たり前のことかもしれないが、目の前で微笑む彼女と、映画のなかの小夜子がどうしても重ならない。 それが俳優という生き物のすごさなのだろう。 黒沢清が引き出した、これまでにない柴咲コウの姿を観たいなら、映画館に足を運ぶべきだ。 柴咲コウ/Ko Sibaski 東京都生まれ。1998年デビュー。以後、俳優、アーティストとして幅広く活躍を続ける。2017年、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』主演。近年では映画『沈黙のパレード』『月の満ち欠け』『Dr.コトー診療所』(2022年)、『君たちはどう生きるか』『ミステリと言う勿れ』(2023年)など多くの映画作品に出演。 『蛇の道』 2020年の『スパイの妻 劇場版』でヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞を受賞するなど、国際的に注目を集める黒沢清監督が、自らが1998年に手掛けた『蛇の道』をリメイク。主人公を男性から女性に変更、現代のフランスを舞台に繰り広げられるリベンジ・サスペンスは、監督自ら「最高傑作ができたかもしれない」と語る自信作に仕上がっている。 監督・脚本:黒沢清 原案:『蛇の道』(1998年大映作品) 出演:柴咲コウ、ダミアン・ボナールほか 2024年6月14日(金) 全国劇場公開 ©2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA
TEXT=川上康介 PHOTOGRAPH=鮫島亜希子