「ドードーが落下する」再演に向け、加藤拓也が“視点”を絞った改訂理由明かす
1月に神奈川・大阪・三重・茨城で上演される劇団た組「ドードーが落下する」について、作・演出を手がける加藤拓也の取材会が、昨日12月9日に大阪府内で行われた。 【画像】加藤拓也(他4件) 「ドードーが落下する」は2022年に初演され、第67回岸田國士戯曲賞を受賞した作品。芸人の夏目と相方の賢、イベント会社に勤める信也ら友人たちを軸にした物語で、再演にあたり、台本の改訂が行われた。 改訂した理由について加藤は「初演時は主人公・夏目の視点と友人の信也の視点、2つの視点がありましたが、再演では夏目の視点だけになりました。それは初演時に想定していた“コミュニケーションとケア”というテーマよりも、別のこと……“職業による社会的な肩書きが個人的な悩みを透明にしている”というテーマが浮かび上がってきたからです。このお話で言えば、“お笑い芸人”という夏目の肩書きが、彼が持っている悩みや病気を透明にしてしまっている。再演ではそのテーマを、より際立たせたいと思っています」と話す。また再演では、台本だけでなく舞台美術も変わるそうで「前回は視点が2つだったので“風景”の要素が強い舞台美術でしたが、今回は彼(夏目)の世界になるように、このお話が彼の中にどう存在しているのかをイメージした舞台美術になります」と明かした。 本作執筆の動機については、「この話のモデルになった芸人の友人と、コロナ禍でしばらく会わず、久しぶりに会ったときに自分がそれまでどういう距離感で接していたのかがわからなくなった、ということが大きなきっかけです。コミュニケーションが取れていないわけではないのだけれど、何が楽しくて彼と一緒にいたのかが、よくわからなくなってしまった。答えがあるわけではありませんが、書くことで自分がどう感じていたのかを整理できるかなと思ってこのお話を書き始めたところがあります。ただ、僕と友人の話ではありますが、1回上演したことで自分の気持ちとは距離ができました」と説明した。 夏目役を演じるのは、加藤作品にたびたび出演している俳優・平原テツ。「平原さんは、すごく素敵だと思っています。それは、僕が作品に求めている俳優の姿というのが、匿名性のある演技をする俳優だからです。役の前に俳優自身のパーソナルが来るのを僕はよしとしていないのですが、彼はその点がすごく上手いなと思いますし、そこが彼を好きなところでもあります。また演劇を立ち上げるときに、空間の中での彼の存在の仕方みたいなものが、ほかの俳優に対してもいい影響を与えていると思います」と、加藤は平原に対する厚い信頼を語った。 また本作は、昨年平原が急きょ代役を務めたことでも話題を呼んだ「いつぞやは」と近しい世界観を持った作品でもある。「ドードー」初演と再演の間に「いつぞやは」があったことで、再演に影響した部分はあるか、と問うと「僕が書いている作品の中でいくつかのレパートリーと言いますか、なんとなくの“感触のジャンル”みたいなものがあって、『もはやしずか』や『在庫に限りはありますが』のように組み立てを意識して書いているものと、『いつぞやは』『ドードー』のように自分の感情を意識して書いているものは別に存在しています。後者は、モデルが自分の中にいるということが大きくて、そのことがセリフの運びや展開にも影響していると思います。その点で、『いつぞやは』と『ドードー』はジャンル的に近いものがあると思います」と話した。 創作環境の向上に関しても、加藤は早くから高い意識を持って臨んでいる。先日ロンドンで「One Small Step」のクリエーションを行ったことで感じたことはあるか?と問いかけると、「たくさんありますね」と即答。「それをどう自分の劇団に生かせるか、ということは、今回がロンドンでの上演を終えて1作目なので、まだ試しながらですが、例えばミーティングの際にこういう用意をしておくとみんながアイデアを出しやすいとか、そういったことは劇団にも取り入れています。またもっと“外側”の話をすれば、ロンドンの演劇の人たちは職業として働いている意識がすごく強くて、稽古も10時から18時と“仕事”の時間帯なんです。そういった意識は、もっとあってもいいのかなと思いました。ただ決して良いところばかりを感じたわけではなく、疑問に感じた部分もあります」と言い、その1つとして、ロンドンの舞台ではあまり字幕上演がないことを挙げた。「ロンドンには多様な国の人たちがいて、ロンドンの舞台の人は『ロンドンには多様な演劇がある』と自負しているけれど、その人たちの母国語をある意味奪って、みんなが英語で演劇をやるのはなぜだろう、と感じました」と加藤は思いを述べた。 テレビドラマや映画など映像での活躍も続く加藤。映像と舞台の違いについて問われると「観客の目の前で同じ時間が流れているのが演劇で、そうではないのがスクリーン。やりやすさという意味では大差なく難しいと思いますし、やりがいも違います。ただ、どちらにしても自分がこの作品をどうしたいかということは一番重要だと思っていて。以前は、これを演劇にしたいとか、それは映画に向いているのではないかと思ったりしましたが、今は演劇に向いているかもしれないけれど映画にしてみたいとか、映画に向いているかもしれないけれど演劇にしてみようと考えたりもします。僕の中で演劇であるかどうかというのは、お客さんが能動的に物語を構築できるかどうかに依存していて、お客さんの在り方によって作品の着地がどうなるかが、演劇と映像の違いだと捉えています」と語った。 さらに記者が、行き詰まった夏目が発する「実は価値が無いものは見えない方が世間はすごく良くなるんですよ。だから僕をそうしてもらったんですね」というセリフについて、加藤自身の目線や思いが込められているかと尋ねると、「台本を書いている中で出てきたセリフではありますが」と前置きしつつ「社会的な価値だけに依存したくないと思っています。でも、やっぱりそういった部分でジャッジされがちで、それは好きではないなと思っています」と静かに、キッパリ語った。 最後に公演への意気込みを問われた加藤は「思っているより暗くない話なので、気負わず観に来ていただけたらと思っています」と話して、笑顔を見せた。 公演は1月10日から19日まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ、1月25・26日に大阪・近鉄アート館、2月8・9日に三重・三重県文化会館小ホール、15・16日に茨城・水戸芸術館ACM劇場で上演される。 ■ 劇団た組「ドードーが落下する」 2025年1月10日(金)~19日(日) 神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ 2025年1月25日(土)・26日(日) 大阪府 近鉄アート館 2025年2月8日(土)・9日(日) 三重県 三重県文化会館 小ホール 2025年2月15日(土)・16日(日) 茨城県 水戸芸術館 ACM劇場 □ スタッフ 作・演出:加藤拓也 □ 出演 平原テツ / 金子岳憲 / 秋元龍太朗 / 今井隆文 / 鈴木勝大 / 中山求一郎 / 秋乃ゆに / 安川まり / 諫早幸作