連載第1回「"撃つ姿が美しい"モデルガンの世界」
「モデルガン」の文化は、一般の人の銃の所有を禁じている日本で発展した独自の文化である。「エアソフトガン」や「ナーフ」などの弾を撃つことができるトイガンは海外でも発売されているが、"火薬"を使用して作動させ、"弾が出ない"モデルガンは日本ならではだ。 【画像】火薬を発火させることで、銃口から火花が吹きだし、煙が上がる。モデルガンは撃つ姿が美しいのだ 銃とは本来、カートリッジ、弾丸の発射装置としての道具に過ぎない。しかしその弾を打ち出す姿……。轟音と共に銃口から炎と煙、銃弾が飛び出し、反動で銃身が跳ね上がる。オートマチックならば薬莢が飛び出し、銃口から煙がたなびく。その一連の動作、姿はたまらないほどカッコよく、ロマンを感じる。その姿をわずかな量の火薬で再現する。 本来なら弾薬の膨大なエネルギーを利用して作動する実銃の構造を、わずかな火薬のエネルギーを無駄なく利用し、快調に動作する機構を開発し、安全にリアルな体験を提供する。そして内部構造もできるだけ再現する。そのためにすごい工夫が詰まっている。これがモデルガン最大の魅力ではないだろうか。 今回から「"撃つ姿が美しい"モデルガンの世界」として、短期隔週連載の形でモデルガンの魅力を様々な視点で紹介していきたい。連載第1回目は、オートマチックモデルガンの代表作といえる「コルト・ガヴァメント」をモチーフとしたタニオコバの「GM-7/7.5 ガバメント」の"カートリッジ"を紹介したい。 驚くことに、タニオコバ「GM-7/7.5 ガバメント」シリーズは、メーカー純正カートリッジとして3つのシステム、5種類ものカートリッジが用意されている。5種類のカートリッジはそれぞれ特徴があり「発火と音」、「カートリッジの質感」、「メンテナンス性に優れる」、「コストパフォーマンスが良い」などそれぞれの利点がある。 これらのカートリッジはタニオコバ・モデルガンの制作者である「小林太三氏」のモデルガンへの想いが垣間見える。今回はこの5つのカートリッジのそれぞれの特徴を紹介しすることで、モデルガン文化の一端をお見せしたい。 ■ 発火や音、雰囲気、利便性……様々な特徴を持つ5つのカートリッジ これまでも弊誌ではタニオコバの「GM-7/7.5 ガバメント」シリーズを紹介しているが、改めてタニオコバ、そして小林太三氏のことを簡単に紹介したい。タニオコバは、かつてモデルガンメーカーとして有名だったMGCでモデルガン設計者として携わってきた小林太三氏によって設立されたモデルガンメーカー。小林太三氏がMGCで手がけたモデルガンは、実銃の機構を正確に再現するよりは、おもちゃとして楽しい動きをして、そこそこの耐久性があるとして人気を集めた。 タニオコバ「GM-7/7.5 ガバメント」シリーズの魅力は、何といっても有名で人気の銃、コルトガバメント(1911)が快調に動作することにある。ドラマや映画で見るように、銃口から火花や煙が出て、カートリッジが飛んでゆく。撃ち尽くしてスライドがホールドオープンする。そんな実銃さながらの動作が手軽に体験できるところにロマンを感じる愛好者も多い。 さらに、複数のカートリッジが用意されているのも、こだわりポイントがあるモデルガン愛好者に評価されているポイントでもある。実銃の世界でも用途によって使用される弾丸、カートリッジも異なる。モデルガンでも音を大きく感じたいとか、銃口から噴き出す火花を派手にしたい、確実な動作を行いたいなど様々な目的でカートリッジが選べるのはある意味リアルな部分でもある。 今回は、タニオコバの5つのカートリッジを紹介したい。 ・使い捨てオープンカートリッジ(ポリマーオープンカートリッジ) ・オープン・ハードアルマイトカートリッジ ・ヘキサゴンCPカートリッジ ・EasyCPカートリッジ ・ポリマーイージーCPカートリッジ 簡単にカートリッジの概要を説明したい。「オープンカートリッジ」とは火薬に圧力を掛けるピンなどの機構が外部にある。このため発火と音が外部に出やすく、音と火花が比較的大きく出る。一方で火薬カスなども出やすいのでモデルガンの内部の負担が大きい。 「CP(クローズド)カートリッジ」は火薬を発火させる機構をカートリッジ内部に持たせたもの。カートリッジを発火させる棒状の機構「デトネーター」などがオープンカートリッジと異なるため、カートリッジにあわせ内部機構を変える必要がある。 自分の好みや目的に合わせカートリッジを選び、モデルガンを分解して内部機構を交換するのは、自分もガンスミスになったようで楽しい。そして1発1発カートリッジに火薬を詰めるのも銃好きにはたまらない瞬間だ。そして1発1発カートリッジに火薬を詰めるのも銃好きにはたまらない瞬間だ。 次章からいよいよそれぞれのカートリッジの特性とその動画をお見せしたい。 ■ コストに優れた「使い捨てオープンカートリッジ」、排莢の演出もカッコイイ! まずは、使い捨てオープンカートリッジ(ポリマーオープンカートリッジ)を紹介していこう。オープンカートリッジは発火機構がモデルガン内部にあるので、カートリッジ単体のコストが下げられる。ポリマー樹脂なので軽くて扱いやすい。このカートリッジの最大の魅力は、「排莢時高く上がること」。薬莢が銃から勢いよく飛ぶのである。 「GM7/7.5」シリーズにおいて標準カートリッジに位置付けられているのが、このポリマーオープンカートリッジだ。樹脂製ケース(薬莢)と真鍮製インナー(プライマーパーツ)のみで構成され、7mmキャップ火薬をセットするだけで準備が完了する。前方が大きく解放された形状なので発火音も大きく、樹脂製ゆえに軽量なカートリッジは、排莢の際に勢いよく飛んでゆくので爽快感がある。 1発あたり100円前後と安価で、万一なくしてしまったとしても惜しくないと歓迎された。使い捨てとされているが、きれいに洗浄して再利用すれば数回は使えるので、コスパに優れており今でも標準的に使われるカートリッジだ。 発火のメカニズムとしては、バレル(チャンバー)にセットされたデトネーターに、カートリッジがかぶさる(装填)。ハンマーによってプライマーが前進してデトネーターの先端がキャップ火薬を発火させる。デトネーターに装着されたラバーヘッドがシールとなり、発火した際のガスがデトネーターを押す(カートリッジが後退する)力で、スライドを後退、排莢アクションとなる。 軽快な発火と軽量なポリマーカートリッジが勢いよく排出される様子。反動は銃のセッティングにもよるが比較的マイルドだ。2~3マガジンほどなら連続して撃っても正常に動作する。たくさん撃つ場合にはバレルの簡易クリーニングをするとより良好な動作が得られる。コスパに優れるので、バンバン撃って楽しみたい人に最適だろう。 ■ 金属感がたまらない「オープン・ハードアルマイトカートリッジ」 オープン・ハードアルマイトカートリッジは、使い捨てオープンカートリッジ(ポリマーオープンカートリッジ)のケース(薬莢)部分が金属であるアルマイトになったものだ。インナー(プライマー)パーツはポリマーカートリッジと同じ真鍮製で、7mmキャップ火薬をセットするだけなのも同じ。ポリマーカートリッジと混在させて使っても問題ない。 オープン・ハードアルマイトカートリッジの最大の魅力は"金属"であること。実銃のような金属カートリッジが排莢され、床に当たったときに金属音が鳴る。この感触がたまらないのだ。 金属製(アルマイト)のケースになったので、金色に輝く薬莢がリアルさを演出してくれる。マガジンに装填した際の感じはもちろんのこと、ブローバックして飛んでゆく薬莢の様子もリアルな感じがあって気持ち良い。床に落ちた際の金属音も雰囲気をアップしてくれる。水につけておき、使用済みのキャップを取り出すだけで内側がある程度クリーニングされ、外側も軽く洗うだけで汚れが落ちるなど、メンテナンス性にも優れている。 オープン・ハードアルマイトカートリッジの発火の様子。金色の薬莢が飛んでゆく様子がリアルだ。繰り返し使用することが前提のカートリッジなので、動作が安定しているのも良い。毎回バンバンたくさん撃つのではなく、たまに遊ぶくらいなら、こちらの方が適している。 オープンカートリッジのシステムの特徴は、エネルギーを生じさせるエリア(バレル・チャンバー部とデトネーター)に、次々と新しいエネルギー源(カートリッジ)が供給されるというサイクルとなる。 デトネーターとラバーヘッドは発火ガスによってだんだん汚れてくるため、定期的なクリーニングが必要となる。また、発火の熱や衝撃、ガス圧などを受け止めるラバーヘッドは使用しているとだんだん劣化してゆく。 カートリッジへの火薬のセットアップ、使用後のクリーニングが簡単である反面、デトネーターが汚れやすく、くりかえして連続した発火が難しかったり、早い連続した発火(高サイクルの連射)には適さない傾向がある。 オープンカートリッジは、軽量で取り扱いが簡単。音や火花もそれなりに出るので迫力もある。カートリッジ形状も空薬莢のように見えるので排出される際の雰囲気が最も良いように感じる。 ■ 連射しやすく、リコイルの強さが楽しい「ヘキサゴンCPカートリッジ」 オープンカートリッジがカートリッジ前方が開放されてセットが終わった後の火薬も目視で見えるのに対して、CPカートリッジ系のクローズドカートリッジは、火薬をセットしたあとにインナーパーツ(ファイヤリングピン)をセットし、トップパーツをねじ込むため、外側から火薬が見えないのが大きな特徴だ。 このカートリッジの最大の魅力は「よりリアルなオートマチックのアクションが体験できること」。カートリッジ内で火薬が爆発するので、デトネイターなど銃内部にカスが溜まりにくく、連続した動作に耐え、掃除も楽だ。金属カートリッジなうえ、リコイルも強いので、「モデルガンを撃っている」という感触が楽しい。単純に音と炎を比較すればオープンの方が大きいがこのリコイルはそれ以上の魅力がある。 発火の過程はカートリッジ内でファイヤリングピンが火薬を発火させ、発生したガスがファイヤリングピンを前方に押し出す。バレルにセットされたデトネーターを支えにしてファイヤリングピンがカートリッジ前方に押し出されると、結果として反作用によりカートリッジが後退する。そのパワーでカートリッジがスライドを後退させるというわけだ。 ヘキサゴンCPカートリッジは、CP-HWカートリッジの流れを汲むクローズドカートリッジだ。インナーパーツは、Oリングがはまったピストン(ファイヤリングピン)と、プライマーパーツの2つ、ケース(薬莢)は、ネジ式で2つに分割される。 ボトム側のケースにプライマーパーツ、火薬をセットした後で、ファイヤリングピンとなるインナーをセット。ヘッド部分を閉めてセット完了となる。ケース内側やOリングにはシリコンオイルを吹いておくと良好な動作が得られる。(火薬を濡らさないよう、キャップ火薬をセットする前に塗布しておく) ヘキサゴンCPカートリッジは、発火と生じたガス圧のエネルギーの処理がカートリッジ内部で完結するクローズドカートリッジなので、バレルやデトネーターはオープンデトネーターに比べて汚れにくく、汚れていても動作に影響を与えにくい。連続した発火や早いサイクルの連射にも対応する。インナーパーツのOリングの消耗具合には気を付けておきたい。 真鍮製だったCP-HWカートリッジと比較して、アルマイト製のケースとなったヘキサゴンCPカートリッジは軽量だ。それでもオープンカートリッジなどと比べると重いので、リコイルショック(撃った時の反動)は強めに出る。反面音は少し抑えめになる。 銃内部は汚れが少ないものの、カートリッジそのものがエンジンとしてパワーを生み出すので、カートリッジのクリーニングは念入りにしたい。他社のモデルガン用カートリッジと似ている方式なので、他のモデルガンも持っている人、これから色々なモデルガンを使ってみたい人などは、同じ感覚で取り扱えるかもしれない。カートリッジの形状も、弾頭がついたカートリッジのようなフォルムなので、マガジンに詰めた際のリアル感は高い。これから撃つぞ!という気分を盛り上げてくれる。 ■ オープンとクローズドのいいとこ取り、「Easy-CPカートリッジ」 "オープンデトネーター方式とCPカートリッジのいいとこ取り"を目指したのがEasy-CPカートリッジだ。構造としては、オープンカートリッジに、ピストンカップという樹脂製のインナーパーツを組み合わせたものとなる。大きな音と軽快な動作を実現でき、なおかつメンテナンス性も向上しているというのが特徴である。 CPカートリッジのように2つに分割されるケースで、ファイヤリングピンとして機能するインナーパーツはなく、ピストンカップという樹脂製のシール材兼インナーピストン代わりのパーツがある。ボトム側に火薬をセットするまでは他のカートリッジと同じだが、その後ピストンカップをセットして、押し込み、トップパーツを取り付ける。 オープンカートリッジのラバーヘッドに相当するのがピストンカップとなる。デトネーターにあるファイヤリングピンが火薬を発火させ、生じたガスがピストンカップを押し出す力でスライドが後退する。ピストンカップも使い捨てということだが洗浄して繰り返し使うことも可能。大きく変形していたり摩耗が激しかったりしていたら交換が必要だ。 オープンカートリッジの課題としてラバーヘッドが汚れると動作に影響があるが、それが毎回カートリッジごと交換される(カートリッジ内で処理される)ので動作性が向上するという仕組みだ。 エネルギー的にも、ヘキサゴンCPのようにカートリッジ内でエネルギーの発生、伝達が完了する。ピストンカップがデトネーターから解放されると余剰ガスが前方に吹き抜けるのは、ヘキサゴンCPカートリッジのインナーと同じゆえに「Easy-CP」の名前が冠されているのだと思う。 イージーCPカートリッジでの発火。インナーとなる「ピストンカップ」の使用頻度によって動作性能が多少バラついてしまう。新品なら快調かというと必ずしもそうでもなく、1、2回使用していた方が、適度にカドが取れて動きが良いようにも感じられる。ポリマーイージーCPカートリッジが入手困難になった今、個人的には最も使用頻度が高いカートリッジになっている。 ■ 絶版だがリコイルショックがお気に入りの「ポリマーイージーCPカートリッジ」 最後に、現在は販売されていない「ポリマーイージーCPカートリッジ」を紹介したい。新品の販売はないものの、フリマアプリやオークションなどで時折入手可能なので、興味がある方は探してみて欲しい。 軽快な動作と、ほどよいリコイルショックを感じられる。個人的には、リコイルショック、連続しての発火、コストパフォーマンスなどでバランスが取れているように思うが、セッティングの面倒さや、ポリマー製ケースの消耗具合(すでに新品の入手は困難)などから、たまに使う程度になっている。 ■ どのカートリッジを使ったら良い? それぞれのカートリッジの違いは、実際に撃ち比べてみなければわからないくらいの差ではあるが、連続して撃ったり、たくさん発火させたりすると、その違いが差となって実感できる場面がある。 モデルガン仲間でも好みがそれぞれあるようで、オープンカートリッジ一択の人もいれば、色々なカートリッジを使い比べて楽しみたいという人もいる。何十発、100発以上撃っても確実な動作を実現したいという人もいれば、盛大なマズルフラッシュ(火花)と迫力の発火音を実現したいという人など、それぞれの目標を設定して試行錯誤するのが楽しいのだ。 初めてモデルガンを持ったタイミングでは、最初から付属するカートリッジで十分満足を得られ、特にオプションは要らないかなと思う人も多い。筆者もその一人だった。 しかし、遊んでいるうちにもっと衝撃を感じたいとか、火花が盛大に出て欲しいとか、いちいちメンテナンスするのは面倒とか、いろいろ欲を出してしまうのが人間だ。色々試して、バランスを崩して失敗して、最適な状態を探ってゆく。その過程で仲間たちと情報交換したり、他人の銃を撃たせてもらったりして刺激をもらうなど楽しさが増大してゆくのがモデルガンに限らず趣味の醍醐味とも言える。 タニオコバのGM-7は、銃本体を買い換えることなく、パーツの交換や買い足しで、さまざまなセッティング、バリエーションを楽しめる貴重なモデルガンと言える。家庭の事情でたくさんモデルガンを家に置いておけないという人でも、いろいろなセッティング、発火の楽しみを体験できるので、ぜひ手元に置いて、楽しんでもらいたい。
HOBBY Watch,Lightning