男だともらえないことも 遺族厚生年金の男女差
遺族年金のうち、遺族厚生年金は、妻が遺族になると年齢に関係なく支給される(30歳未満で子どもがいない場合は5年間の有期給付になる)のに、夫が遺族となった場合は、妻の死亡時に55歳以上でなければ支給されません。 【図でわかる!】遺族厚生年金、男女差の不公平 国の制度に男女差があることをどう考えるべきでしょうか。西南学院大学教授の河谷はるみさんに聞きました。【聞き手・須藤孝】 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇夫は稼ぐべき? ――男女差があるのはなぜでしょう。 河谷氏 「妻は家事育児に専念していることが多く、働いたとしても稼ぎが少ないのが一般的だ」という考え方があるからです。裏返せば夫は働いて稼ぐべきだということです。 しかし、妻が家事育児に専念すべきだという考え方自体が変わってきていますし、妻が稼いで夫が専業主夫の場合もあります。そのような生き方を年金制度が無視する妥当性はありません。 ◇男性が声をあげてもいい社会に ――男性が不利になる制度です。 ◆訴訟も起きていますが、訴えたのは男性です。男女差について男性から声を上げることは大切なことです。 「そんなことを言っていないで、男が稼ぐべきだ」という風潮はまだあるからです。 男は働けばいいから、55歳まではいらないだろう、というのはおかしいのです。専業主夫だけではなく、男が働いていて同時に養われている場合もあります。 男性だから稼げる時代ではありません。男性が若くても、「年金がいる」と言える社会にしなければなりません。 ――どうすべきでしょうか。 ◆妻のほうにも30歳未満で子どもがいない場合は5年間の有期給付になる制度があります。再婚が前提のようにもみえます。 配偶者に関する年齢要件は男女とも廃止して、「死亡した者に生計を維持されていた」という生計維持要件で対応するのは一つの考え方です。性別も年齢も関係なく、遺族になった時の生活に必要かどうかという基準です。 ただ基準をどう設定するかという問題は残ります。結局は遺族になった時にどこまで働けるかに関わります。仮に遺族になった時に収入が高かったとしても、その後、収入が下がった場合にどうするのか。 また、子どもの問題もあります。子どもが(制度の対象の)遺族になるのは何歳までかも、実際にはとても大きな問題です。 ◇家族の形が変わっている ――遺族年金自体についてはどうでしょうか。 ◆遺族年金自体は廃止すべきではありません。生活費を稼いでいた配偶者を失った時にどうするかという問題はなくなりません。 配偶者を失ってから、働いて稼げる女性が、現実にどれだけいるかということです。男女が平等ではない現状がある限りは、現状を変えていく部分と同時に、女性が十分に働けない状況に対応する制度は必要です。 家族の形は変わってきていますが、家族がどうあるかは自主的な選択の問題です。専業主婦も残り続けるでしょう。年金制度は、家族の形に積極的に介入すべきではありません。 ◇必要から考える ――今の年金制度にはどこかに男性が稼いで女性を養うべきだという考え方が残っているような気がします。 ◆社会保障は保障しなければならない必要性があるかどうかが大切です。ですから、労働と社会保障は裏表の関係にあって切り離せません。 働けない人はその必要に応じて給付を受ける考え方が大事です。だれが損をする、得をするという問題ではありません。 あるべき家族のモデルから制度を考えるのではなく、保障の必要があるかどうかという基本に戻って考え直すことが大切ではないでしょうか。(政治プレミア)