『いちばんすきな花』神尾楓珠が放つ唯一無二の存在感 “ゆくえ”への想いと先生の正体
男女の友情は成立するのか、そして複数人でいるときには誰の意見を重視するべきか……。人間関係に潜む“問い”を丁寧に描く『いちばんすきな花』(フジテレビ系)も、いよいよ折り返し地点となった。ドラマにおいて、やはり印象的なのはゆくえ(多部未華子)、椿(松下洸平)、夜々(今田美桜)、紅葉(神尾楓珠)が織りなす独特な関係性と、彼らの個性を切り取る役者陣の手腕だろう。今回は、第5話で思わぬ一面を見せた紅葉と、役を演じる神尾楓珠について紐解いていきたい。 【写真】『いちばんすきな花』電話をする今田美桜演じる深雪夜々 神尾は2015年に『24時間テレビ 愛は地球を救う38』(日本テレビ系)内のドラマ『母さん、俺は大丈夫』でテレビドラマデビューを果たしてから、コツコツとキャリアを積み上げてきた。2018年の『シグナル 長期未解決事件捜査班』(関西テレビ・フジテレビ系)では、主人公・三枝健人(坂口健太郎)の子供時代(大西利空)シーンで兄の加藤亮太として登場。幼き日の健人をおんぶした姿が印象的な亮太は、本作において事件の発端となるキーパーソンでもあった。 その後は、当時注目の若手俳優が生徒役で一同に会した『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)に真壁翔役で出演し、今田美桜と共演を果たしている。最近では『ナンバMG5』(フジテレビ系)でのヤンキー高校生・伍代直樹役から『17才の帝国』(NHK総合)の主人公・真木亜蘭役まで活躍の場を広げていった。 整った顔立ちが賞賛されがちだが、芝居においてははっちゃけたイケメンというよりは、独自の色を持った役を演じることが多く、唯一無二の存在感が魅力の役者でもある。『いちばんすきな花』の紅葉のようなずっしりと考えさせらる役を演じても、『ナンバMG5』の五代役や『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)の牧野匠役のような腕っぷしの立つキャラクターを演じてもさまになる。幅広い役を演じることができる柔軟さがあり、同時期に多数の作品に出演しながら怒涛の勢いで知名度を上げてきた。 その多忙ぶりは特に2022年ころに顕著であり、テレビにおいては『青野くんに触りたいから死にたい』(WOWOW)、『先生のおとりよせ』(テレビ東京)、『ナンバMG5』、『17才の帝国』などの連続ドラマに出演しながら『ほんとにあった怖い話 夏の特別編2022』(フジテレビ系)内のドラマ『非常通報』などでも主演を務めた。YouTubeでは『先生のおとりよせ』のスピンオフ作品『先生のおとりよせ ~配達員・鬼女島君のおいしい日常~』なども配信されている。 2022年は映画においても『親密な他人』、『20歳のソウル』、『恋は光』と3つの作品で主演を務めたほか、『カラダ探し』にも出演するなど凄まじい出演数であった。その後、数カ月の休業に入った折りには心配もされたが、2023年の夏以降は『真夏のシンデレラ』、『いちばんすきな花』でテレビドラマ連続2クールに出演しファンを安心させてくれた。 とにかく引っ張りだこの神尾だが、『いちばんすきな花』でも繊細な感性と、内に秘めた加害性を合わせ持つ紅葉を演じ視聴者の心をざわつかせている。とりわけ第5話の篠宮(葉山奨之)とのシーンにおいては、紅葉の行き場のない感情が如実に形となって表れた。 いつでも集団の中で明るく振る舞うことができ、一見友人が多い紅葉だが、誰かの1番にはなれずにいた。クラスで友だちの少ない子に声をかけて、友人になってあげることで自身の居場所を確保しようとしていた複雑な心境を、臨場感溢れる芝居で熱演する。神尾の表現する紅葉は、いつも「抱え続けている」のだ。 本当の友人関係をうまく築けないこと、自分より付き合いやすそうな相手を選んで利用していた事実、ゆくえへの想い……。だが、篠宮に真実を伝え、椿に耳を貸してもらいながら、紅葉は徐々に心の内を吐露していく。少しずつ抱えていたものをおろしてゆき、ただの“いいやつ”から人間臭く泥臭い魅力のあるキャラクターへと変化を遂げたように思う。 今後の紅葉について気になるのは、まだ折り合いのつけられていないゆくえへの想いとずっと探していた大好きな先生の正体だろう。第6話のラストで椿が引っ越す意思を明かしたことからも、何か大きな動きがありそうだ。
Nana Numoto