【バレー】バレー新リーグ開幕の期待と課題
バレーボールの国内トップリーグのV1リーグが、「大同生命SV.LEAGUE」(SVリーグ)に生まれ変わり、10月11日のサントリーサンバーズ大阪-大阪ブルテオン戦(東京体育館)で新たなスタートを切る。新リーグ構想が明らかになって2年。新たな試みへの期待と課題を探った。 構想が明らかになったのは、SVリーグが開幕するちょうど2年前の2022年10月11日だった。この日に開かれたVリーグ機構(当時)が開いた「記者懇談会」と名付けられたオンライン会見で、國分裕之会長(現日本バレーボール協会専務理事)が、「策定中の中期計画を年内に発表したい」と公表。國分氏は「プロリーグの定義はできていないが、どういう形がいいのかいろんな可能性を探り、2024-25年シーズンから新しいリーグをスタートさせたい」と明らかにした。 すでに、各チームには世界を目指すトップリーグ(SVリーグ)と地域に根差した活動を継続していくリーグ(Vリーグ)の2つのリーグ構想が示されていたが、企業チームの中にはバレー部の独立採算を目指す分社化などへの反発が強く、構想は進展していなかった。 また、新しい「Vリーグ」に加盟することになる多くのV2、V3チームからは「SVリーグ中心に議論が進められ、機構側からちゃんとした説明がない」という不満の声が噴出。一部チームからは、Vリーグ機構から脱退し新たなリーグ設立を模索する動きもあった。このため、当初、22年12月に予定していた新リーグ構想の概要発表は延期されることに。 事態は、びわこ成蹊スポーツ大学学長(当時)の大河正明氏(現SVリーグチェアマン)が、V機構副会長に就任した22年9月から一気に進展する。Jリーグ常務理事、Bリーグチェアマンとして、サッカー、バスケットボールの改革に携わって来た大河氏は、就任直後から各チームからの要望を聴取し、中期計画のスケジュール変更に着手。 23年2月15日、構想案を発表した大河副会長は、大きなネックになっていた分社化問題について「基本的に分社化は求めません。『我々は福利厚生費で賄う』というチームを排除するつもりはありません」と、各チームの実情に沿った運営方針を容認。ゴルフにたとえ、「最大限、フェアウェイは広くしました」とSVリーグを目指すチームが参入しやすいように環境整備をしたことを明らかにした。 強引に分社化を求めることで脱退する可能性があるチームを増やすより、目指す方向性が同じなら参加条件を緩和してスタートさせ、分社化のメリットを実感してもらってから基準を設けてもいいという発想の転換で、懸案をクリアできたこともSVリーグ設立につながった。 課題もある。 チーム数はSVリーグは男子10、女子14、Vリーグは男子18、女子11でスタートする。このうち、Vリーグには、将来的にSVを目指す「SV準加盟」チームが男子3、女子2含まれており、地域と共生して身の丈に合ったチーム運営を目指す他の24チームとの“温度差”があるのは否めない。サッカーのJ2やJ3、JFLのような再編成も必要だろう。 リーグ関係者の中には「世界最高峰を目指さず、地域に密着したチームによる地域リーグのトップカテゴリーをVリーグと位置 付けてもいいのでは」という声もある。 西田有志(大阪ブルテオン)や国内リーグに活動の場を移した高橋藍(サントリーサンバーズ大阪)らのパリ五輪での活躍などでバレー人気は高まっている。これまでは、その人気を国内リーグにつなげることができなかったことも、懸念材料だ。 「ママさんバレーをはじめ競技人口が多く、パリ五輪の視聴率をみてもわかるようにバレーのポテンシャルは高い。バレー人気も盛り上がっていますが、同じ室内競技のバスケットに比べ、国内リーグの盛り上がりはこれまでのところ劣勢です。足場を固めないと高い建築物が建たないのと同じで、バレーボールの面白さや応援して楽しいということを知ってもらい、ファンをしっかりと獲得したい。そのためにはリーグも変わらなければいけないし、クラブや選手も変わらなければいけないと思います。これまでのV機構にはノウハウがなかったと思います。バレー以外の競技を見てきた人がほとんどいなくて、トップマネジメントの経験者も少なかった」と大河チェアマン。すでに元銀行マンの實吉冬貴氏を事務総長に招聘するなど、リーグ事務局の組織改革は進んでおり新体制は整いつつある。 日本バレーボール協会(JVA)との連携も、大きなテーマだ。SVリーグの決勝の日程を変更し、JVAが主催する黒鷲旗全日本男女選抜大会のこれまでの日程に重ねるなどしたこともあり、両者の関係が良好でないと思われる一面もある。9月30日のSVリーグの定時社員総会で金川裕一・JVA副会長が理事に選任された。JVAがSVリーグに関心を持ち、SVリーグもJVAに関心を持つことで関係改善は進みそうだ。 「たとえば、夏場が活動の中心となる代表と、秋春シーズンのリーグの活動をパッケージとしてスポンサーに売り込むなどすれば、パートナーさん(広告主)からすれば、バレーをもっと魅力的に感じてもらえるかもしれません。いろんな意味でバレー界として知恵を絞ることが必要だと思います」と大河チェアマン。 新しいリーグのスタートとともに、日本のバレー界も新たな局面を迎えようとしている。
北野正樹