文化大革命で消えた内蒙古の伝統―遊牧文化見直し、敬意払うようになった
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。同じモンゴル民族のモンゴル国は独立国家ですが、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれています。近年目覚しい経済発展を遂げた一方で、遊牧民の生活や独自の文化、風土が失われてきました。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録するためシャッターを切り続けています。アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。
文化大革命以降、内モンゴル全域において、伝統的なデールを着ることはほぼなくなった。私は小学校に入る前、デールを着ることはあったが、それ以降ほとんど着ていない。結婚式をあげるために、自分のデールを作ったことが初めてだった。しかし2000年以降、自分たちの文化、伝統、言語などを見直し、絶滅のおそれに直面していることに危機感を持つ人々が増えてきた。 その一つが、デールを着ることが増えてきていることに表れている。例えば、結婚式や正月のお祝い、そして、毎年行われるナダームの開幕式で、遊牧民だけではなく、地方政府の幹部たちもデールを着るようになってきた。 もっと喜ばしいこともある。実は1990年代後半から田舎では小中学校が合併され、子供たちは父母や祖父母が都市部に出てきて家を借りるか、寮に入って学校に通うようになった。最近はその都会の小中学校で正月が終わって、学校が始まる際に、生徒や先生もデールを着て、ハダッグを持って、教室の中でお互いに伝統的な新年の挨拶をする時間が設けられている。私たちの学生時代は考えられないことだった。 ハダッグ(日本でハダクと表記することもある)とは絹の意味だ。長さ1m前後、幅20cmほど(このサイズよりも長いものもある)で、黄、白、青の三色がよく使われる。もともとはチベット仏教から由来し、モンゴル人には神聖なものだ。仏教儀式やお寺の飾りの一部で使われるほか、新年の挨拶、客人の歓迎、オボー祭りやナダームの開幕式などに広く使用する。民間では白か青がよく使われる。 写真のように両手でハダッグを持つと、その上に銀碗に入れた酒を年長者に差し上げ、片膝を曲げ、お辞儀をするというのが一般的だ。年長者は酒を持ち、祝福の言葉を述べながら、それをいただく。 昔はハダッグの使用には厳しい忌がたくさんあったが、今はその使用は緩くなり、失礼な使い方も目立つ。一方でそのことに対し、SNSで厳しい批判をしたり、正しい使い方を教えたりすることも見られるようになった。 このような小さいことの積み重ねが、モンゴルの子供たちに自分たちがモンゴル人であり、そのことを誇りに感じるということを自覚してもらえれば、何より嬉しい。 ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第5回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。