中国はどのように「世界の覇権」を握るのか
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中国とはどのような国家か?
中国とは、地政学の観点から見て、どのような国家か。この問いは現代世界において決定的な重要性を持っている。 ところが意外にも簡単には答えられない。ある者は、ランド・パワーの雄だと言う。大陸系地政学の観点からは、アジアの覇権国という位置づけになるかもしれない。 だがたとえばスパイクマンの理論を参照するならば、中国は「両生類(Amphibia)」である。中国は、大陸に圧倒的な存在感を持って存在している一方で、遠大な大洋に通ずる沿岸部を持っている。中国は、歴史上、大陸中央部からの勢力による侵略と、海洋での海賊等も含めた勢力による侵食の双方に、悩まされてきた、「両生類」として生きる運命を持っている国家だとも言える。
中国とドイツの共通点
かつて二度の世界大戦を仕掛けて敗北したドイツは、ランド・パワーとシー・パワーに挟まれた国家であった。ドイツの帝国としての存在の歴史的淵源は、神聖ローマ帝国にあると言えるが、プロイセン主導でオーストリアを排除する形で19世紀に成立したドイツ帝国は、神聖ローマ帝国と比して、大きく沿岸部にその存在の比重を移動させた国家であった。 そのためやがて、ヨーロッパ大陸における覇権を求めつつ、同時に海洋におけるイギリスとの間の競争に乗り出した。その結果、ランド・パワーのロシアと、シー・パワーのイギリスに囲まれる構図で戦争に突入することになった。同じ図式は、ナチス・ドイツの第二次世界大戦にもあてはまる。 これはドイツの外交安全保障政策の失敗として描写される経緯であるかもしれないが、より構造的には、ドイツ特有の地理的位置づけによってもたらされる事態である。もっともそれはスパイクマンの英米系地政学の理論の枠組みにそって言えることである。 大陸系地政学の理論にそって圏域を重視する視座を採用すれば、ドイツはヨーロッパの覇権国となろうとしたが、拡張主義を警戒されすぎたために、隣接する圏域の覇権国と衝突することになった、という説明になるだろう。 英米系地政学にそって、中国が「両生類」であるとすると、かつてのドイツと同じ地政学上の位置づけにある、ということだ。かつて近代化に後れを取って国家としての存在が危うかった20世紀の中国は、陸上兵力を中心とした軍事力を整備していた。ところが今日の中国は、海軍力の面において目覚ましい進展を遂げている。陸でも、海でも、覇権国としての地位を固めようとしている。大陸系地政学の理論枠組みにそって言えば、中国は、東アジアに自国の生存圏/勢力圏/広域圏を確立することを狙っており、その覇権を陸上においても海上においても確立することを狙っている。