「中身はどうせトヨタだから」といわれてきたレクサス車「なぜ最近、走りがよくなった?」開発陣が挑む「味磨き活動」の成果とは
素性のいい走りの土台となる強固な“ハコ”をつくるために
さて、ではどうしたら、どのレクサス車に乗っても同じテイストを感じられるようになるのでしょうか?
開発陣が考えたのは、核となるレクサス車の走りの土台をつくり、それをベースに共通の考え方を構築し、すべてのモデルに織り込んでいけば、自ずとすべてが同じ方向を向くのではないか、ということでした。 その土台となるのは、やはりボディ。それは体幹を鍛える、素性をよくするという近年レクサスが発信しているメッセージにも沿うものです。 ただし肝心なのは、ボディのどこをどのように強化するのか、ということです。 実は、前述のようにボディ剛性アップに勤しみ、数値上はライバルに負けない剛性を身に着けたはずのレクサス車ですが、内部では「まだ何かが足りない」、「ライバルたちとは一体何が違うのか」といった思いも渦巻いていたそうです。 そしてある日、これまでと違った方法で計測してみると、全く違った結果が出たといいます。ねじり剛性と着力点剛性を重視したこれまでの評価軸では、世界のライバルに比肩する走りの味をつくり出すには足りないことが分かったというのです。 では、一体どうするのか。さまざまなトライの結果として浮かび上がってきたのが、ボディのフロント先端、センタートンネルと前後バルクヘッドの接合部、そしてリア後端の剛性アップが、走りを劇的に変えるということだったそうです。 そこで、まず既存モデルへも後づけで装着しやすいということで採用されたのが、ここまで取り上げてきたラジエーターサポートブレースやリアクォーターブレース、ロアバックパネル下端のガゼットといった車体前後の剛性向上パーツとなります。 想像ですが、これらの効果は面としてだけでなく、立体としての剛性が高まることではないでしょうか。要するに、素性のいい走りの土台となる強固な“ハコ”が出来上がる、というわけです。 実はそんな話をしていたら、「味磨き活動」の一環としてつくられた現行「LS」をベースとする検討車両に乗る機会に恵まれました。こちらは車体の前後端だけでなく、センタートンネルと前後バルクヘッドの接合部を含む4箇所の剛性を高めたもの。「LS」を使ったのは、車体が大きく重いことから、最も効果が出やすいのではという意図からだそうです。 実際、その乗り味には大いに驚かされました。車体はカチッとしているけれど、決して重々しいわけではなく、サスペンションがしなやかに動いて路面を舐めるようにトレースしていきます。 頭に浮かんだのは「すっきりとしていて奥深い」というレクサスが目指す走りについて語る際のフレーズは、まさにこういうことだったんだ! ということ。ドイツやその他の国のライバルとも明らかに異なる、しなやかでたおやかな独自の味が、そこにはあったのです。 もちろん、これだけの剛性アップをおこなうには、既存モデルの場合は大掛かりな改修が必要でしょう。実際には、近い将来登場するモデルのための新規プラットフォームを開発する際に、この要素を始めから盛り込んでおくという方が現実的かもしれません。 * * * いずれにしても、コストや手間のかかる話ではあります。もし同じプラットフォームをトヨタやGRの車両も使うとしたら「そこまでは要らない」といわれてしまうかもしれません。 けれど私(島下泰久)としては、レクサスにはぜひそこまで踏み込んで欲しいと強く思います。 レクサス車はトヨタ自動車の中でも最先端の技術を採用し、世界のプレミアムカーたちと戦う。そこで得られた知見が、後にトヨタ車にも展開され、そのときにはレクサスはさらに一歩先を行っている……。例えば、フォルクスワーゲングループの中でポルシェやアウディが果たしているような役割を、レクサスは担うべきだと思うのです。 明らかな成果を出しているこの「味磨き活動」。このまま続いていけば、レクサスの将来にはさらに期待が持てそうですよ!
島下泰久