気づけば「“やる気のない指示待ち部下”だらけになっている職場」の根本要因
「働きがい」のある組織づくりで大切な6つのこと
一橋大学教授の小野浩氏は、「働き方改革を目的化してしまうと、改革が終われば目的も制度も失ってしまうという危険をはらむ。企業としては目先の動きに囚われるのではなく、ポスト働き方改革でも意義のある、ありたい姿を目的化する必要がある」と述べています。そして、「社員が自由に発言して、自分の意志で柔軟に働ける企業は、社員が幸せになれる企業である。社員の働きがいとウェルビーイングが高くなれば、働く質と生産性は自然に高まり、働き方改革は結果として実現される」と述べ、個人という視点の必要性を強調しています。 「ウェルビーイング(well-being)」とは、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態を言います。「働きがい」含め、個人の幸福感のありようが働く質と生産性に大きく影響するのです。 小野氏は、「働く質を高めるための基礎条件」として、次の6つを挙げています。 (1)信頼と性善説 (2)権限委譲・自律性 (3)心理的安全性 (4)自主性・コントロール (5)関係の質 (6)成果に応じた報酬 たとえば、誰もが安心して自分の考えや気持ちを話し、行動できる状態である「(3)心理的安全性」の有無や、相互理解や相互の尊重が得られ、信頼関係が培われているような「(5)関係の質」が良好な職場かどうかということは、価値創造に大きく影響します。 これらがあることで、「チームの力」が最大化されるのです。「チームの力」とは、物理的肉体的な協力だけではなく、誰もが「他人の脳」をも使って仕事ができる力です。 1人で考えているだけでは、その力は1以上にはなりません。そして、単に人が1人増えただけでは、1+1=2にしかなりません。 そして、人が2人いれば1本の線、3人集まれば3本の線でコミュニケーションがとれます。けれども、4人以上になると人数分の線ではコミュニケーションがとれないように「n×(n-1)÷2」という数式で、人のコミュニケーションの線の数だけ掛け算的にチーム力が高まる組織が理想です。 あるべき姿は、全員の脳を使ってアイデアを出し合い、そのアイデアに触発され、さらに次のアイデアが生まれる、という図式です。やがてそれらのアイデアが集約され、まったく新しい商品やサービスが生まれてゆく。このような現象は、あなたの会社で起きているでしょうか? 「(1)信頼と性善説」「(2)権限委譲・自律性」「(4)自主性・コントロール」は、いずれも1人ひとりの内面から湧き出る「やる気」につながります。信頼され、任されて、自分で意思決定しながら仕事を進められることは、仕事に取り組む「主体性」を生み出す前提となるのです。 サボらないか、不正をしないか、常に疑われて監視される。箸の上げ下ろしまで報告を求められる。任されることなどなく、すべて上から指示がくる。このような職場で「自ら積極的に仕事に取り組む」姿勢など生まれるでしょうか。 ただビクビクしながら指示を待つだけの受け身の社員となるか、自ら動く社員となるかは、社員本人だけでなく、組織を率いる者による影響が小さくありません。 また、「(6)成果に応じた報酬」とは、いわゆる給与や昇進・昇格などの報酬です。やった仕事をきちんと見てくれる。そしてきちんと評価して、ふさわしい処遇を与えてくれる。そうでなくて、「やる気」は持続するでしょうか。 社員1人ひとりをきちんと見て、適正に評価し、それに報いることができる人事の仕組みや制度がなければ、優秀な人から離れていきます。 これら6つの条件は、働く質を高めるためのチェックリストとして活用することも推奨されています。あなたの職場では、いくつ満たされているでしょうか? ぜひ、チェックしてみてください。 松岡 保昌 株式会社モチベーションジャパン 代表取締役社長 1963年生まれ。1986年に同志社大学経済学部卒業後、入社したリクルートで「組織心理」学び、ファーストリテイリング、ソフトバンクでトップに近いポジションで「モチベーションが自然に高まる仕組み」を実践。 現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書に『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)がある。
松岡 保昌