【密着】50歳を前に専業主婦からジュエリー作家に フィレンツェで新たな人生を歩む母へ届ける娘の想い
イタリア・フィレンツェ。ここでジュエリー作家として奮闘する中尾美貴子さん(55)へ、兵庫県で暮らす娘・泉美さん(32)が届けたおもいとは―。
フィレンツェ彫りのジュエリーに惚れ込み、ひとり本場へ
伝統技法が息づく職人の街としても知られるフィレンツェ。美貴子さんはフィレンツェ彫りのジュエリーに惚れ込み、7年前この街にやって来た。工房があるのは、職人たちが多く集まるエリア。ランプ職人のステファノさんが営むランプ工房の一角を作業場として借りている。美貴子さんはここでジュエリー作りをさせてもらう代わりに、平日は午前10時からランプ作りを手伝っている。夜7時、ランプ作りが終わり、ステファノさんが帰ってからがジュエリー製作の時間になる。 伝統技法であるフィレンツェ彫りのジュエリーは、透かし彫りの技術を活かしてシルバーやゴールドをまるでレースのように仕上げたり、繊細な彫刻を施して装飾するというもの。デザインから彫金までを美貴子さん1人で行う。「最初のころと比べるとある程度は腕が上がってきていると思うんですけど、やっぱりまだまだです。もっとうまくなりたい」という美貴子さんは毎晩細かな作業に集中して打ち込むが、帰る頃にはもうヘトヘト。帰宅後の夕食はトーストしたパンにオリーブオイルをかけただけ。2切れを立ったまま食べて、1日を終えた。
娘に背中を押され、専業主婦から46才で留学を決意
23才で結婚し、2人の子どもをもうけた美貴子さん。子育てに夢中で、気づけばあっという間に40代に。そんなある日、偶然目にしたフィレンツェ彫りを施した作品に心を奪われた。既に46才だったが、いても立ってもいられなくなり、フィレンツェにあるジュエリー学校への留学を決意。専業主婦でいることに不満があった訳ではない。ただ、本当にやりたかったことをやり残してきたのかもしれない…。家族と話し合い、夫とも別々の道をゆくことを決めた。娘の泉美さんも背中を押してくれたという。そして1人ですべてを準備し、48才でイタリアへ移住。言葉も分からない街で、人生初めての一人暮らしを始めた。スーパーで買い物すらできなかった美貴子さんの力になってくれたのは、まだ昭和のような人情が残る職人街の人たち。ランプを買うために入った工房でたまたま知り合ったステファノさんもその1人だった。