台湾巡り激論後、周恩来氏と信頼構築 田中角栄元首相の対中交渉術を舞台化 劇団ポラリス
日中国交正常化から約半世紀。首相就任直後に中国を訪れ、当時の周恩来首相と緊張感あふれる交渉を繰り広げた田中角栄元首相の軌跡を描く音楽劇「ザ・スピーチ~アジアの純真~」が7月、東京・下北沢で公演される。田中氏は慎重論も根強かった国交正常化をなぜ急いだのか。舞台では、共同声明調印に至るまでのドラマを生々しく、時にユーモラスに描写する。 ■「大学出た連中が考えろ」 本作は、オペラ歌手やミュージカル俳優らでつくる「劇団ポラリス」が演じる。ポラリスは令和4年から、田中氏が政治家を志して新潟の寒村を離れ、首相に昇り詰めるまでを描いた前作「ザ・スピーチ」を公演してきた。今回は2年ぶりの新作で、首相就任後の最初の大事業となった対中交渉を通じ、難しい国際情勢下で日本を率いた政治家としての手腕に迫る。 訪中後の交渉が行き詰まりかけ、随行した大平正芳外相(当時)らが頭をかかえる中、田中氏は明るい表情を崩さなかった。打開策を尋ねる大平氏らに、田中氏は「そこはお前ら大学が出た連中が考えろ」と冗談めかした言葉で返した。 田中氏は台湾問題で中国の一方的な主張に反論する一方、対立する利害ばかりに目を向けるのでなく、対話を重ねて信頼関係を築き、そこから解決策を導き出すことを重視した。当時は周氏も同じ姿勢でいたことが、最終的な合意に結びついたとされる。 ■詩吟と中国琵琶の演出 企画と脚本を手掛けた堀越信二さんは、田中氏の自伝や元秘書らの書籍を細かく分析。厳しく、人情味あふれる交渉過程を再現した。舞台では、相手の心を巧みにつかむ田中氏の人間像を浮かび上がらせる。 一方、周氏は戦前、日本に留学したことがあり、京都には周氏の詠んだ詩碑が残っている。本作ではこの故事に着想を得て、独特の節回しで漢詩を歌う「詩吟」と、中国琵琶奏者の于渓瑩(ウ・シーイン)さんによる演奏を組み合わせたユニークな演出も行う。 中国は最近、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や台湾海峡などで軍事的圧力を強め、日本との関係も緊迫の度を増している。ポラリス座長の吉武大地さんは「今の時代だからこそ、日中双方が手を取り合おうとした当時の話は響くものがある。色々な世代の人にみてもらえれば」と語る。
「ザ・スピーチ~アジアの純真~」は、7月31日に昼の部(午後2時開演)と夜の部(午後6時半開演)の計2回、東京・下北沢の劇場「ザ・スズナリ」で公演する。入場料は投げ銭方式で、観客が決めるスタイルを取る(入場予約は必要)。 問い合わせはカンパニーイースト03・6416・0444(平日午前11時~午後5時)。またはポラリスの公式サイトへ。