正智深谷が埼玉決勝を制して4度目V! なかなか届かなかった“場所”へ、指揮官が明かす苦しかった胸の内「昌平みたいな強豪を倒すのは…」【選手権予選】
スタンドの家族に最高のプレゼント
準決勝の前半追加タイム、佐藤は相手の2度に渡る決定打をまずヘッドで、続いて右足ではね返し、絶体絶命のピンチを救った。2戦続けてヒーロー的存在となり、「入ってくれと思った。準決勝を無失点で勝ったので今日も大丈夫だと思い、(チームで)点を取ることだけを考えました」と喜んだ。 小学3年の2015年6月、埼玉スタジアムであったロシア・ワールドカップ、アジア2次予選のシンガポール戦を両親と観戦。「ここに立ちたいって親に言いましたが、(今日は)埼スタで勝つ試合を見せたかった」と優しそうな表情で語る。佐藤はこの日、応援席にいた両親と姉に最高のプレゼントを贈った。 先制したものの先はまだ長かったが、正智深谷はどの局面でもボールへの出足で先んじ、1対1でも忠実にタイトに粘り強い応対を最後まで継続。主将の大和田は、「8月頃から全員でいろんな要求を出し合ったら、守りが良くなったんです。なので、選手権に向けて無失点で勝つことをテーマにしてきました」と決勝での“ウノゼロ”が誇らしそうだ。 3年前に全国高校総体に出場。3年生はそのチームにあこがれて入学してきた選手が多い。小島監督は「正智深谷で全国に行くんだという志を持った選手なので、今年は勝負の年だった」と喜び、「埼玉勢は長らくベスト4にも入っていないので、みんなで団結してそこまで勝てるように責任を持って戦いたい」と全国選手権での抱負を口にした。 今年は“深谷”が一躍有名になった。近代日本経済の父と呼ばれる実業家、渋沢栄一の肖像が描かれた新一万円札が7月に発行されたのだが、深谷市は渋沢の出生地でもある。 4月に還暦を迎えた小島監督は、「今日は赤い服を着ようかと思ったんだけど、やっぱりやめました」と言って笑わせた。新一万円札に8年ぶりの選手権に60歳の祝い。“深谷”は今年、当たり年になった。 取材・文●河野 正