炎上会見で露呈、期待が迷走に変わった日大改革 焼け跡から再建を果たした「中興の祖」が源流に
田中英壽理事長体制での一連の事件を経て、2022年7月、作家・林真理子氏を理事長に迎えた日本大学。改革が進むかにみえた新体制だったが、アメフト部薬物事件、重量挙部・陸上部・スケート部における「被害額約1億1500万円超」もの金銭不祥事などが立て続けに起こっている。このほど上梓された『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』では、いま話題の『地面師』著者でもある大宅賞作家の森功氏が、累計120万人以上の卒業生を送り出した戦後の「日大」裏面史を掘り下げながら、その原因を探っている。日本最大のマンモス私大でいま何が起こっているのだろうか。本書の序文を抜粋・編集しお届けする。 【写真】2023年11月、日大は林理事長の減俸とともに、学長、副学長の「辞任」を発表した
■ハチの巣をつついたようなパニックに 紺色のスーツに身を包んだ学校法人「日本大学」理事長の林真理子が2023(令和5)年7月11日、記者会見に臨んだ。ワンマン理事長として知られた田中英壽体制の下、理事が背任事件を引き起こした日大では、田中自らが脱税事件に問われ、大学を追放された。 代わって日本最大のマンモス私立大学を率いるようになったのが、芸術学部OGである小説家の林である。学校法人のトップに就いた林は大学改革に乗り出した。
それからちょうど1年を経て、意気揚々と臨んだ記念すべき記者会見になるはずだったに違いない。東京・市ヶ谷の日大本部の会見会場に集った記者団に呼びかけるかのようにボルテージをあげ、鼻孔を膨らませながら言った。 「私としてはすべての膿を出し切ったと思っております」 しかし、ここから事態が暗転する。 実はこの記者会見の1週間ほど前、日大内部ではアメリカンフットボール部の薬物問題が発覚していた。林が会見時にそれを知っていたかどうか。少なくとも当事者たちはこのときすでにハチの巣をつついたようなパニックに陥っていた。そんな渦中の理事長会見だったのである。
林の会見からほどなくし、マスコミに日大アメフト部員の大麻使用疑惑が漏れ出して、7月末から取材が殺到した。林真理子は月の明けた8月2日朝、自宅に詰めかけた記者から玄関先で質問攻めに遭う。記者たちの質問に苛立ち、彼らの口を封じるかのように思わず言い放った。 「違法な薬物が見つかったとか、そういうことは一切ございません。なんとか学生を信じたい気持ちでいっぱいでございます」 晴れやかな理事長就任1周年会見からわずかひと月のちのことだ。この大学トップの頑なな全面否定が、日大の迷走の始まりだったといえる。林は部員の逮捕を受けた直後の8月8日、学長の酒井健夫や副学長の澤田康広を引き連れ、大学本部で緊急会見を開いた。執行部がそろって会見に臨んだ3首脳会見がそこに追い打ちをかける。