上場企業の自社株買い「9.6兆円」、2年連続で過去最高だが…「自社株買いでPBRが改善する」は本当か?【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】
※本稿は、チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。
●企業の自社株買いにより株価が上昇し純資産が減少すれば、PBRは改善するとの考え方がある。 ●株価不変の仮定では自社株買いでPBRは必ずしも上昇せず、株価上昇の仮定ならPBRは上昇。 ●自社株買いは盛んだが、本質はROEを改善させて株価を押し上げPBRはその結果上昇するもの。
企業の自社株買いにより株価が上昇し純資産が減少すれば、PBRは改善するとの考え方がある
自社株買いとは、上場企業が自らの資金を使い、株式市場から自社の株式を買い戻すことです。買い戻した株式を消却することで、発行済み株式数が減少し、1株あたり利益(EPS)が増加するため、配当と同様に株主還元策の1つとされています。自社株買いは、企業にとって株式の取得や消却などの手間が掛かりますが、株主還元以外にも、自社の株価は割安であるとアナウンスする効果も期待されます。 そのため、自社株買いは市場で好感されやすく、株価の上昇につながるケースもあります。なお、東京証券取引所(以下、東証)が昨年3月末、企業に資本効率の改善を要請して以降、市場では株価純資産倍率(PBR)1倍割れの解消が進むとの見方が広がりました。PBRは、株価を1株あたり純資産で割ったものであり、自社株買いで株価が上昇し、純資産が減少すれば、PBRを改善させるとの考え方もあります。
株価不変の仮定では自社株買いでPBRは必ずしも上昇せず、株価上昇の仮定ならPBRは上昇
それでは実際に自社株買いがPBRの上昇につながるか否か、以下確認していきます。図表1の通り、PBRは株価収益率(PER)と自己資本利益率(ROE)から構成されます。「株価が不変」と仮定すれば、自社株買いによって、PERは分母のEPSの増加で低下し、ROEは分母の自己資本の減少で上昇するため、PBRは必ずしも上昇しないということになります。 簡単な計算をしたものが図表2です。株価が不変という仮定のもとでは、PBRが1倍割れの企業が自社株買いをした場合、PBRは低下、1倍の場合は不変、1倍超えの場合は上昇という結果になりました。一方、株価に30%上乗せした価格で自社株買いを行ったケースも図表2で示しましたが、このケースでは、自社株買い前のPBRの水準に関わらず、PBRは上昇するという結果になりました。
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