政治への怒り、あおるSNS 真偽問わず拡散、分断加速
【シリコンバレー時事】トランプ前米大統領(共和)がハリス副大統領(民主)に勝利した大統領選では、双方の陣営・支持者がSNS上でののしり合った。 【ひと目でわかる】米共和党綱領の経済政策 SNS投稿では意見対立が互いに怒りや不安をあおり、真偽を問わず、自身が共感する情報を拡散する傾向が確認された。広告収入に依存するSNS運営企業が、利用者つなぎ留めのために導入した「ユーザーが好む情報を優先表示する仕組み」が負の感情を増幅させ、分断に拍車を掛けた側面がある。 ◇民主、共和双方が被害 「ウォルズ副大統領候補(民主)は、高校教師時代に青少年を性的に虐待した」。X(旧ツイッター)に「告発」動画が投稿されると、利用者は一斉に非難した。10月に情報当局が偽情報だと発表したにもかかわらず、「小児性愛者」との攻撃がやむことはなかった。 「ハイチ系移民が住民のペットを食べた」などデマを吹聴し、批判を受けたトランプ氏も、偽情報の被害を受けた。選挙中に「トランプ氏は文字通りヒトラーだ」とする米雑誌の見出しの画像が拡散。しかし、これも改変されたものだった。 米プリンストン大学のクロケット准教授らは、Xやフェイスブックの投稿を分析。「怒りを駆り立てる見出しは、信頼できるか誤っているかを問わず、拡散される」ことを確認した。 ◇アルゴリズムのわな 多くのユーザーに共有された投稿は、企業が設計したアルゴリズムによって、さらに広い利用者に推奨される。各ユーザーには閲覧履歴などに基づき類似の情報が表示され続けるようになり、同じ意見を持つ人々が固まる。閉鎖的な情報空間で特定の思想が共鳴し合い、他の意見を受け入れなくなる「エコーチェンバー」と呼ばれる現象だ。 こうした状況は、政治の話題以外でも問題を生んだ。メタ(旧フェイスブック)が運営するインスタグラムを巡っては、過去に「容姿が美しい」とされる人々の画像を繰り返し見せられた少女らに、摂食障害などの悪影響が表れていることが判明。ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が連邦議会で陳謝し、対策を迫られた。 運営各社がこうしたリスクをはらむ仕組みを採用するのは、利用者に長時間サービスを使ってもらうためだ。収益の大半を占める広告収入は、広告がどれだけ閲覧されるかに左右される。強い感情を喚起してユーザーをくぎ付けにし、広告を目にする機会を増やすことは経営上のメリットだ。 ◇外国勢力に付け入る隙 各社が導入した、閲覧数に応じて投稿者に広告収益を分配する仕組みも、負の感情をあおる投稿を助長している。閲覧数を伸ばす目的から迷惑行為や炎上を仕掛ける投稿者が後を絶たないのは、もうけとなって返ってくる可能性があるからだ。クロケット氏は時事通信に対し、「いいね!」といった社会的な評価は「怒りのメッセージを投稿する動機を強める」と指摘。「金銭的な報酬が加われば、動機はより強まるだろう」と話した。 SNSは、外国勢力に付け入る隙も与えている。ロシアや中国、イランといった米国と緊張関係にある国々は、選挙などに関する偽情報で米国をかく乱しようと試みている。ウォルズ氏に対する虚偽告発は、ロシアから資金を得た個人が拡散したものだった。