『虎に翼』寅子とよねの悲しい決別 妊娠・出産がキャリアに与える影響は現代でも
娘を出産し、母になった寅子(伊藤沙莉)
よねは寅子の妊娠を知らされていなかった。寅子がしたことは自分への裏切りで、男たちに頭を下げる寅子は屈服しているように見えたのかもしれない。「こっちの道には二度と戻ってくんな」とよねは吐き捨てたが、その声には一抹の寂しさがにじんでいた。 あらためて、妊娠・出産が女性に与える影響の大きさを痛感する。当時の社会は、子どもを産むことを女性の役割とする一方で、女性から社会的地位を取り上げた。同性の友人や家族は育児への理解はあっても、よねのように家父長制の庇護を受けない女性からは、寅子の対応は手ぬるくて男性に日和っているように見えてしまう。先駆者ゆえの困難に寅子は直面していた。 たしかに寅子は気負っていたかもしれない。私がやらなければと意気込んだはいいが、依頼者にだまされるなど空回りしていた印象もある。仕事を受けるために社会的地位が必要と考え、結婚を急いだことも短絡的だった。けれども、そのことを責めることはできない。去って行った仲間のため、また理不尽な現実に抗うため、常に全力で悲壮感すら漂わせる寅子は、ただただ必死だったのだ。 優未を出産し、母となった寅子は自宅で穏やかな日々を過ごす。直道(上川周作)が出征したことで、花江(森田望智)と話す機会も増えた。勉強と仕事に追われてきた寅子にとって、雌伏の時になるだろうか。
石河コウヘイ