物価上昇率は急速に低下(1月東京都区部CPI):日銀は2%の物価目標を柔軟化したうえで政策修正に着手することがおすすめ
日銀の2%の物価目標達成の宣言と政策修正に2つのリスク
全国CPIでコアCPIは、1月分で2%を割り込んだ後、2月分では前年の電気・ガス補助金の影響が剥落することで0.5%程度押し上げられ、2%台半ば程度となろうが、年後半には再び2%を割り込み、2025年には1%割れも見えてくるだろう。日本銀行のマイナス金利政策解除など政策修正を予想する上で、注目は賃金とされてきたが、物価動向も再び注目点となってきている。 物価上昇率や物価上昇率見通しが中長期的に2%程度で安定する可能性は低いだろう。日本銀行は、2%の物価目標の達成が見通せたうえで、金融政策の正常化、本格的な政策修正を実施すると説明してきた。しかし、実際に日本銀行が2%の物価目標達成を宣言したうえで、3月あるいは4月にマイナス金利政策を解除するというシンプルな決定を行う場合には、2つの大きなリスクに直面してしまうだろう。 第1は、日本銀行が金融政策を中立姿勢に戻すために、短期金利を比較的近い将来に2%超えの水準まで引き上げるとの観測が広がることだ。日本銀行は、マイナス金利政策解除後も緩和的な政策を続け、金利が大きく上昇するような非連続的な動きにはならないと説明している。 しかし、2%の物価目標達成とは、物価上昇率や物価上昇率見通しが中長期的に2%程度で安定することを意味するものであり、そのもとで日本銀行が0%、+0.1%など0%近傍に政策金利を据え置けば、実質-2.0%程度の異例の緩和を続けることになる。2%の物価目標達成と判断する一方で異例の緩和を続けることは、大きな矛盾となる。 この点を踏まえると、金融市場が短期金利の大幅引き上げ観測を強め、これが2%を上回る10年国債利回りの上昇や急激な円高を招くリスクが排除できない。
政策修正前に物価目標の柔軟化を
第2は、日本銀行が2%の物価目標達成を宣言した後に、実際の物価上昇率は2%を下回り、さらに1%を下回る可能性が十分に考えられることだ。そうなれば、日本銀行の物価判断は誤っていたことになり、日本銀行はレピュテーションリスクを負う。さらに、段階的な政策修正、正常化策の妨げにもなりかねない。 こうした2つの大きなリスクを踏まえれば、日本銀行は、2%の物価目標への強いこだわりを捨て、2%の物価目標を中長期の目標へと柔軟化したうえで、さらに、政策修正は金融緩和の継続の障害となる副作用の軽減を主目的にした措置であることを明らかにしたうえで、政策修正に踏み切る方が良いのではないか。 3月あるいは4月に、日本銀行が2%の物価目標の達成が見通せたと宣言し、マイナス金利政策解除に踏み切り、その後政策修正を進めていく、といったシンプルで分かりやすい道を拙速に選ばない方が、経済、金融市場の安定、あるいは日本銀行の信認を維持しつつ、金融政策の正常化を円滑に実現できるのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英