アフガン版「シンドラーのリスト」はスマホならではの緊迫感 タリバン政権に弾圧されそうな人たちの救出劇
リストを見たモフセンは「タリバンに見つかったら皆殺しだ」とつぶやいた。現地の女性は「私はブルカで顔を隠しています。見つかったら何をされるかわからない」とロンドンのモフセンに電話で苦衷を訴える。映画は、左目をえぐり取られた音楽グループのリーダーや、銃で乱打される人、後ろ手にしばられたまま鞭打ちの刑にあう人の姿を映し出していく。 モフセンが電話でアフガンのフランス大使館に救出をかけあうが、大使館員に「800人は多すぎます」と切り返される。「1日何人救えますか」と食い下がるモフセン。大使館員は「まず20人のリストを下さい。そのあと次の20人を救出しましょう」と言う。8月末の撤退期限が刻一刻と迫る中、脱出は思うように進まない。 ■スマホゆえの臨場感 劇映画のように作り込まれた作品ではない。アパートの中をスマホで撮影しただけの素朴な動画だが、逆にそれゆえに緊迫感と臨場感がみなぎる。その結果、観客は終始ハラハラドキドキさせられ続ける。「他の人は乗れたのに。なぜキミはあと10分待てなかったんだ」と詰め寄るモフセンに、アフガンの女性が電話越しに「しょうがないでしょう」と涙声で話すのを見て、観客も暗澹たる気分を抱くのだ。最終的にドイツやフランスに脱出できたのは375人だった。 モフセンは21年8月末の米軍撤退後も、アフガン国内に隠れている彼ら彼女らを1人また1人と救出し続けている。山岳地帯の洞窟に数カ月間ひそんでいた元文化相も助け出したという。だが、ウクライナやガザの紛争が相次ぐと、世界は再びアフガンを忘れていく。「このままでは悲惨な状態に置かれた人たちのことに関心が向かわなくなる。何かしなくては」。そう焦るモフセンに対し、「そういえば私が撮ったiPhoneの動画がある」と進言したのがハナだった。彼女は、撮ったまま2年間その存在を忘れていた動画映像のことを思い出した。 本作はハナが監督になり、23年になって編集・制作されている。かくして世にも珍しいスマホ撮影のドキュメンタリーができあがった。 モフセンはその後も救出活動を続け、累計450人の救出に成功している。(朝日新聞社・大鹿靖明) ※AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号
大鹿靖明