門脇麦『厨房のありす』前クールの『フェルマーの料理』に設定が酷似するも…“これが正解” と言えるワケ
テーマは同じ「料理」でも、前クールのあっちが「数学」なら、今クールのこっちは「化学」ときた。 先週日曜(1月21日)から放送スタートした門脇麦主演のドラマ『厨房のありす』(日本テレビ系)。 門脇が演じる主人公・八重森ありすは、小さなレストラン『ありすのお勝手』の店主だが、コミュニケーションが苦手で、それでいてこだわりが強く頑固というキャラクター。 だが、驚異的な記憶力と膨大な化学知識をもちい、お客一人ひとりの健康状態や精神状態を分析して、そのときのその人に合った “やさしいごはん” を作る天才料理人だ。 「料理は化学です」が口癖で、料理の解説を始めると早口で止まらなくなるのだが、そのシーンではありすが解説する化学式が浮かび上がってくるというCG演出が特徴である。 ■「化学」と「数学」、ベースがそっくり? こういった『厨房のありす』の設定や演出を聞いて、既視感を抱いたドラマファンも少なくないだろう。 それもそのはず、前クールである2023年10月期に類似したドラマが放送されていたからだ。 高橋文哉と志尊淳がダブル主演した『フェルマーの料理』(TBS系)。 トップの数学者を目指すも挫折した天才数学少年(高橋)が、謎多きカリスマシェフ(志尊)にスカウトされ、数学的思考で料理界の頂点を目指していくドラマ。同作は天才少年が料理のアイデアを思いついたシーンで、数式があふれ出てくるというCG演出が特徴的だった。 化学的アプローチで料理を作る主人公と、数学的アプローチで料理を作る主人公という設定が似ているし、重要シーンのCG演出も似ている。 だが、『厨房のありす』が『フェルマーの料理』をパクッているなんて糾弾するつもりは毛頭ない。むしろ、類似点が多いのに、作風がまったく異なっているところが素晴らしいとさえ感じる。 ■対極とも言える癒し系ほんわかストーリー どちらが優れているとか劣っているとかの話ではないが、両作はロジック系の料理ドラマという類似点が多くありながら、真逆とも言えるベクトルに進んでいる。 『フェルマーの料理』は料理界で成り上がっていくサクセスストーリーのため、主人公をライバル視するキャラや悪意を持って敵対するキャラも登場。このご時世に現実だったらアウトだろうというモラハラやパワハラのような演出も多々あった。 料理シーンは緊迫感があり、ギスギスしたシーンも多く、作品全体がギラギラしていた。もちろん、そういった作風は、ストーリーを盛り上げるためのスパイスなので納得できる。 一方の『厨房のありす』は、その対極の癒し系ほんわかストーリー。 まず言えるのが、主要登場人物たちがみんな “いいやつ” であること。 たとえば、ありすと2人暮らしのシングルファーザー・心護(大森南朋)は、娘を深い愛情で見守ってきた温厚なキャラ。ありすの幼なじみで有名なヤンキーだった和紗(前田敦子)は、口は悪いが昔から友達想いで、ありすをいじめから守ってきた情に厚いキャラ。 もちろんありすも、周囲の人々を大切に想っている。 登場人物たちがみんなやさしい気持ちの持ち主で、お互いに明るく支え合っている雰囲気が画面から伝わってくるのだ。 ■日曜夜にちょうどいいハートフルドラマ 『フェルマーの料理』のように、激烈な展開で視聴者の気持ちを激しくたぎらせるストーリーではないが、その代わり、ラクな気持ちで観られ、視聴後にほっこり穏やかな気持ちになれる。 明日の月曜からまた1週間をがんばるぞと思いたい日曜夜に、ちょうどいいハートフルなドラマとなっているから、『厨房のありす』はこれが “正解” なのだ。 ちなみに、心護はありすの母親は亡くなったと教えているが、実は母親は生きていることが第1話ラストで匂わせられた。第2話以降、母親にまつわる過去の秘密にもクローズアップされていくミステリー要素もある模様。 けれど、おそらく今後ありすの前に現れるキャラクターも、敵意を持った悪者や私欲に駆られたクズではなく、それぞれの事情を抱えたやさしい人物で、ありすの手料理で心温まるストーリーをつむいでくれるのではないか。 ――今夜放送の第2話も、肩の力を抜いて、ほんわかした気持ちで観られる展開になっているに違いない。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中