僕らだから、楽しめる! 車いすゴルファーの工夫と挑戦
今年PGAツアーを9年ぶりに優勝したカミロ・ビジェガスは、愛娘を亡くすという不幸を「Why me」ではなく「What for」と考えると言った。先日行われた日本障害者オープン(日本障害者ゴルフ協会/DGA)に出場した車いすゴルファーたちはどうか。2023年12月5日号『週刊ゴルフダイジェスト』に掲載した「僕らだから、楽しめる」で紹介した5人のうち、齋藤史行さんと川﨑賢一さんの物語をお届けする。 ※「Why me?」は、「なぜ自分がこんな目に?」というネガティブな表現なのに対し、「What for?」には、「この出来事は何のための試練なのだろう(どうやって自分の今後に活かそう)」とポジティブに物事捉えるニュアンスがある。
「自分で今できるものを探すんです」孤高のファイター・齋藤史行
北海道出身の齋藤は23歳の時スノーボードでのジャンプ失敗により背骨を骨折(脊髄損傷)した。「実は僕、理学療法士の資格を取るため学校に通って、リハビリの研修もしていました。それが逆にされる側になって。ケガをしたのは一度国家試験に落ちて浪人していた時。折れたその瞬間に神経がなくなり痛くはないんです」 まるで他人事のようにサラッと話す。終始、爽やかな笑顔だ。 「親の病院で働く予定でしたから今、事務職として働いているという意味では将来プランはさほど変わっていない。他の人生はあったんだろうと思いますけど」 ゴルフはケガの前に5年くらい打ちっ放しに通っていた。 「自宅を建てる際、親がゴルフをできるスペースを作った。僕もやってみると打てたので再開しました。それからもう25年です」 5、6年前、タイヤが太く立位で打てる欧州製のカートを購入し、グリーンに乗ってプレーできるようになったことで競技熱が復活。 「カートは400万しますけど、立って昔のままの感じでできるのがいい。真っすぐ飛んでいくと気持ちいい。カップにカランと入ると面白い。パーが出れば嬉しい」
30分圏内に通うコースが3つある。もちろん、乗り入れ可能だ。一般のお客さんもコースも普通に受け入れてくれるという。 「地元の上手い人なんかは、全然気にならないと言ってくれます」 年間40回のラウンド。 「昔はパチンコが優先だったけど、最近はゴルフが優先です。パチンコよりお金、かかりませんよ」 2年前、プロゴルファーを目指していた大阪の車いすの大学生とSNSで知り合った。「遊びに来ました。今、1台カートを貸しています。もう第2の人生だからって言った。彼も3年経ったから切り替えないと前に進めない。脊椎損傷になったヤマハの元レーサーの方も今、eスポーツに出ています。皆、自分が今できるものは何だろうと探します。やりたいと思えれば、何でもできる」 きっぱり、真剣な表情で言った。 ネットで3980円で買ったという足元でゴールドに輝くゴルフ用シューズには、齋藤の自負があらわれているように感じる。 「飛距離アップも研究中。昔は手首を固定して振り抜いていたけど、軽くしか振らないのに飛ぶ大学生のリストワークを参考にしたいなと。彼は、僕の振り抜きがすごいと言ってくれました(笑)。目標は、パラリンピック出場もあるけど、大会では交流です。僕、こう見えて人見知り。話かけてくれるのを待っています。そして、動けるうちはゴルフ、続けたいです」