ロンドンマラソンでトップ5を独占したナイキの新厚底シューズの威力とは?
ナイキの厚底シューズは何が凄いのかというと、これまでの常識を一変させたことだろう。従来のレース用シューズは「軽量化」に重点が置かれていたため、ソールは薄底が中心だった。しかし、キプチョゲらから、「クッショニングがしっかり装備されているシューズがほしい」という要請を受けると、ナイキは新たな視点で開発をスタート。「クッション性」と「速さ」を兼ね備えた非常識ともいえるシューズが完成した。 ソールは最も厚い部分で約4センチ。スプーン状のようなカーボンファイバー製プレートを、航空宇宙産業で用いられる軽くて柔らかい特殊素材で挟む3層構造になっている。カーボンファイバー製プレートを屈曲させることで、元の形状へ戻ろうとするときに反発力が発生。ソールに使用されている「ズームXフォーム」も最大85%という高いエネルギーリターンを誇る。うまく履きこなすことができると、緩やかな下り坂を進んでいるような感覚で走ることができるのだ。速く走れるだけでなく、着地時の衝撃を和らげるため、レース後半でも脚を残せるというメリットもある。 そして、世界のマラソンは、ナイキの“1強時代”を迎えつつある。 今回のロンドンで上位勢が履いていた新モデルはミッドソールがさらに厚くなった。フロント部分は4ミリ、ヒール部分は1ミリアップ。ミッドソール全体でボリュームが15%増量したという。地面を蹴り出すフロント部分を厚くしたことで、エネルギーリターンもUPした。ソール部分は重くなったが、アッパー部分を独自素材で軽量化したため、シューズ全体の重さは変わらない。 優勝したキプチョゲは自身が持つコースレコード(2時間3分5秒)を28秒も短縮。2位のゲレメウは1分5秒、3位のワシフンは1分21秒も自己ベストを更新している。これはナイキが投入した新兵器の威力といえるかもしれない。 ロンドンマラソンと同日に行われたハンブルクマラソンには、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の出場権を目指して、13人の男子実業団選手が出場した。高久龍(ヤクルト)が2時間10分3秒で日本勢最高の7位に入ると、9位の荻野皓平(富士通)、11位の一色恭志(GMOアスリーツ)、13位の鈴木健吾(富士通)までがMGCの出場条件(期限内の上位2つの記録の平均が2時間11分以内)を満たした。しかし、ロンドンの結果を考えると、日本人選手のやっていることはスケールが小さいと感じざるを得ない。 東京五輪に出ることが目標なのか、東京五輪で勝負することが目標なのか。男子はMGC出場者が34人になるなど盛り上がりを見せているが、常に「世界」のレベルを意識してほしいと思う。ナイキの新シューズがつくりだす“近未来”に遅れるわけにはいかない。 (文責・酒井政人/スポーツライター)