野球解説チャンネルは「釣り糸を垂らして釣る」が成功の秘訣!? 里崎智也の“YouTuber論”とは
元プロ野球選手、里崎智也氏の野球チャンネル「Satozaki Channel」は、2024年12月現在で登録者数80万人を超えるほどの人気だ。 【写真】里崎節が炸裂! YouTube論を語り尽くしたインタビューカット 今回、モバイルゲーム「プロ野球スピリッツA」を使用した、「プロスピA プロリーグ」(通称:スピリーグ)の、試合直後に里崎氏に話を聞くことができた。 筆者は最初「4年目を迎えるスピリーグ監督のこと」についてインタビューするつもりだったが、冒頭で里崎節を食らい、用意した質問群がどれも一蹴されてしまった。 なので後半からは筆者が率直に気になっていた「里崎流のYouTuber論」について話を聞いたところ、とても盛り上がったので、余すことなくお届けしたい。(小川翔太) ■監督としてやっていることは「特にない」? ──自身が監督をつとめるスピリーグの第3節お疲れさまでした。藤原脩人(ばーぼん)手も5点差を追いついたり、最後は伊藤信義(like)選手が白星で決めてくれました。そういった総括であったり、課題が見えたのであれば伺いたく。 里崎智也(以下、里崎):僕は見ておくだけですので、課題は選手たちが見つけていくことですね。 ──今日、試合前に何か声を掛けられたとかは? 里崎:いやいや、特に何もないです。 ──何もないんですか? 雑談などで選手の緊張をほぐされたという感じでしょうか。 里崎: そうそうそう。 ──試合後のフィードバックなど、何かお声掛けされたことは? 里崎:「また来週ね!」と言っただけですね。 ──監督としては常にそういったスタイルでされているのでしょうか。 里崎:僕が彼らに対して何かアドバイスできるわけじゃないので。 ──里崎さん自身もプロスピAを熱心にプレイされていますし、現役プロ野球選手時代のご経験からできるアドバイスもあるかと。決して「何もアドバイスできない」わけではないと思うんですが……。 里崎:いやいや、本当です。出来上がったオーダーに対して、彼らが対策を練って頑張って、あとは試合をやるだけじゃないですか。 実際の野球のように、(監督からの)サインがあるわけではない。試合中の選手の起用も、彼らが自分で使いやすいようにやるわけですから。 何より彼らは僕よりプロスピが上手いんですから。「餅は餅屋」ですよ。 ──そこはリスペクトしているという形で、あとはモチベーションの向上であったり、盛り上げに徹するということなんですね。 里崎:そうそう。 ■「YouTubeの広告単価が下がっている」は陰謀論? ──ここからはご自身のYoutubeチャンネルについても伺いたく。1日に1投稿~2投稿という高頻度で投稿されていますが。ここまで熱心に投稿されているのはなぜでしょうか。 里崎:儲かるからですよ。だって、あんなの儲かんなかったら、誰もやらないでしょ(笑)。 ──YouTubeは、いまも儲かりますか? ジャンルによっては広告単価が落ちてきて、広告収益的には下がってきてるという話もありますが。 里崎: めっちゃ儲かってますよ。広告単価も全然下がってない。「単価が下がっている」っていう人は、単に動画の再生回数が落ちてるだけです。僕は今年でYouTube活動5年目になりますけど、下がったとかはまったくないですね。 おそらく、急激に下がってる人たちというのは、初期に参入してめっちゃ儲かっていた人たちなんですよ。初期のブルーオーシャンに乗っかっていたから、すごく高いところから落ちただけ。 僕がYouTubeを初めたのは2019年のときですけど、そのときは、中田あっちゃん(中田敦彦)と同じぐらいなんですよ。 そのころのYouTubeというのは、メディア業界的には「テレビに出れない奴がやること」や「負け犬がやること」「素人がやること」という認識なわけですよ。だから、やってる人が少なかったけど、コロナ禍になって、視聴者が一気にYouTubeになだれ込んできた。そのタイミングは投稿者もまだ多くなかったので、視聴回数が一気に増えたわけです。そこから(YouTubeのことを)「負け犬」呼ばわりしていたテレビ業界の人たちが参入して、レッドオーシャンになった。視聴者が動画を選べるようになってトップ層だった人たちが下がっただけで、全体のパイは広いままですよ。 YouTubeの認知度が上がったことで、広告を出す企業も増えたので、全体の広告出稿料の合計は増えているはず。動画投稿者が増えて、広告料の取り合いになっただけです。だから「広告単価が下がっている」というのは、陰謀論やと思います。すでにYouTubeで成功している人たちが、新規参入をさせないために言っているだけちゃうかと。 ■里崎流のYouTuber論 ──5年目で登録者数80万人を超える「Satozaki Channel」の戦略についても聞かせてください。 里崎:YouTubeというのは簡単。YouTubeで視聴回数を取れる動画は「演者が人気」か「内容が面白い」かしかない。演者に人気がなくても、やっていることが面白かったら見てもらえる。やっていることが面白くなくても、演者に人気があれば見てもらえる。演者に人気がなくて、内容が面白くなかったら見てもらえない。 ただ、YouTubeが難しいのはお金の部分。テレビ番組やCMは予算内で演者をキャスティングして箱を用意すれば、赤字にはならないけど、YouTubeは先にお金が出ていくので、再生回数が回らなかった時に大赤字になる。その点をどうクリアするか。 ──里崎さんのチャンネルはその点をどうクリアされたのでしょうか。 里崎:うちのチャンネルは、ほとんど僕の労働だけなので、予算をかけていない。基本的には、僕と袴田彩会さんが喋っているだけ。あとは動画編集の費用があるくらいで、ほぼ経費が掛からないんです。別の出演費やセットを立てるということもしてませんから。 ──確かに、里崎さんのチャンネルはコラボもロケもされてないですね。 里崎:(ロケをしたとしても)面白いことができるとは思わないんです。うちはブルーオーシャンの時期にYouTuberを始めて、先行者利益を獲得したというのが大きいので。野球界の解説系YouTubeチャンネルでやれることは限られてますよね。ただでさえ少ないのに、それをうちが全部やりつくしているから、他の野球関係者がYouTubeをやったとしても、著名なゲストを呼んで、コラボするしかなくなる。 最初のうちはいいんだけど、ゲストも話のネタが無限なわけではなく、同じ話を別のチャンネルでもしだすから、どこでも同じような話になるだけ。だから、僕は自分のチャンネルでゲストとのトーク企画はほとんどしないようにしてます。 ■野球解説チャンネルは「ネタが無限に湧いてくる」から、釣り糸を垂らして釣るだけ ──たしかにいまのYouTubeはコラボが増えすぎて、同じ演者の同じ話が繰り返されている気がします。 里崎:やがては、そのゲスト自体の選択肢も底をつきますよね。となると、結局は企画力の勝負になる。 うちは99.9%は僕が企画しています。ほかもうちと同じような野球チャンネルをやっているように見えても、うちとはジャンルが違う。中華料理でいうところの「ラーメンだけしか出さない」みたいなチャンネルが多いなか、うちは「八宝菜も炒飯も出せる」ので継続して動画を出せるんです。 ──里崎さんのような方が、野球の時事解説を毎日投稿してしまえば、ほかの元プロ野球選手は参入してこれません。 里崎:あと野球業界のネタは毎年同じことをやっていても、その内容が変わってくるんです。シーズン中、移籍関連、ドラフト、どれも毎年違う。まさに釣りに行っているようなもの。資源が無限に湧いてくるから、そこに釣り糸を垂らして釣るだけなんですよ。 ──春夏秋冬でネタの供給が尽きず「動画の継続投稿が約束されている」んですね。 里崎:そうそう。12月でいうと、シーズンが終わったから、各球団の総括と来年への課題を12球団分の動画を投稿すればいい。また年が明けたら、キャンプに向けて、崖っぷち選手を取り上げて「サバイバルポジション」の企画をやればいい。さらに開幕が近づいてくると「優勝のキーマン」などの企画があるんです。 毎年、同じことをやっているのに、選手が変わるから違うコンテンツになる。視聴者からしたら「またこの季節来たなぁ」という体験になるので。
小川翔太