EVシフトを阻む「不都合な真実」。テスラ車の走行コストはハイブリッド車以下!?
「EVシフトは時代の必然」 クルマ社会の未来について、通説のごとく語られてきたセリフだ。しかし最近、その語尾に疑問符がつき始めているようだ。 【写真】続々と有料化するEV充電器 1月11日、米レンタカー大手のハーツが、EV約2万台を売却し、ガソリン車に回帰する方針であることを発表したこともその傾向に拍車をかけている。同社は、この方針転換の理由として、EVの修理コストの大きさを挙げている。 また昨年、欧州議会で2022年に承認された「2035年以降の化石燃料車の新車販売を実質禁止」という方針が見直されることになったことも、EVシフトの先行きを怪しくさせている。さらに、国を挙げてEV産業を振興してきた中国でも、「EVバブル」の崩壊が指摘されている。 巷では今なお、「EVか化石燃料車か」という神学論争にも似た舌戦が繰り広げられている。しかし、その多くはそれぞれのオーナーによるポジショントークであることも多い。 筆者は今から2年半前、実家の両親が6年乗ったトヨタ・プリウスから、テスラ・モデル3に乗り換えたことで、帰省の際にはEVを運転するようになった。つまり、EVのオーナーではない一方で、継続的なユーザーではあるので、この論争においては中立的な視点を持つことができると自負している。 そんな筆者をしても、「今後数年、EVシフトは停滞するのではないか」と思わせる、決定的な事象がある。それが充電料金の相次ぐ値上げだ。 ■EVにも押し寄せる化石燃料高騰 周知の通り、ガソリン価格はここ3年以上にわたって上昇基調が続いてきた。資源エネルギー庁の小売価格調査によると、2020年5月11日に124.8円だったレギュラーガソリンの全国平均価格は、今年1月9日には175.5円にまで高騰している。 ただ、こうしたドライバー泣かせのガソリン高騰は、当初はEVユーザーにとっては対岸の火事のような出来事だった。ところがやがて、世界的な化石燃料価格の高騰や円安を背景とした国内電力料金の上昇は、公共のEV充電器の利用料金の値上げにも波及していった。 例えば、テスラ車専用の公共高速充電器・スーパーチャージャーのなかでも、最大出力250kwと最も高速に充電できる「V3」の料金は、2020年12月の日本上陸以来、出力61kw以上時には1分40円、60kw以下時には1分20円だった。 ここで念のために補足しておくと、EVの充電をする際、充電器は常に一定の出力で給電するわけではない。バッテリーが充電に適した温度であれば、その出力は充電開始後まもなく最大となり、満充電に近づくにつれて低くなっていく。 スーパーチャージャーは使用した時間によって料金を支払う「時間課金」だが、低出力時には安く、高出力時には高い料金を課す2段階料金で、同じ充電量でも料金に生じるばらつきを是正していた。 それが、2022年9月21年に行われたスーパーチャージャーの料金改定では、出力61kw以上の出力隊が3段階に細分化され、4段階料金となった。さらに同時にすべての出力帯において値上げとなった。出力61kw以上では最も低価格な出力帯である61-100kWの場合でも1分あたり55円となり、以前と比べて3割以上の値上げとなった。 そして、その後も段階的に値上げが行われ、直近では同出力帯の1分あたりの単価は95円となっている。わずか2年の間に倍以上になったのだから、その高騰ぶりたるやガソリン価格どころではないのだ。 実家の2021年型テスラ・モデル3スタンダードレンジプラスで、渋滞していない高速道路を平均時速90km程度で走行して実測してみた結果、現在のスーパーチャージャーの充電料金での走行コストはおおむね1kmあたり10円程度になる。実はこれは先代の2015年式のプリウスよりも高コストである。 ハイブリッド車である先代の2015年式プリウスは、高速走行時にはリッター22km程度という燃費を記録していた。これを前出の、1月9日時点のレギュラーガソリンの全国平均価格に当てはめると、1kmあたり8円以下という走行コストが算出されるのだ。