会社人間がリタイア後、地域デビューするには? 知っておきたいボランティア4原則や地域活動の二つの型
【福岡県福津市の市民講座から】
リタイア後をどう生きるのか。人生100年時代、悩ましさが増してきた問題だろう。答えの一つは地域に根ざして生きることだが、企業社会にどっぷり浸ってきた人には、これがなかなか難しい。市民参画に活力を求める各地の自治体が、そんな悩める人を対象にした自治講座などに力を入れている。この春、福岡県福津市で開かれた講座をのぞいてみると…。 (特別編集委員・岩田直仁) 福岡県福津市の高齢者が寄り合い、支え合う拠点「くらしのサポートセンター サンクス」のメンバーたち 福岡市と北九州市の中間に位置する人口約7万人の福津市。市民活動に関する情報の収集と提供、支援を担う「市未来共創センター キッカケラボ」で開かれた地域デビュー講座には、約20人が参加した。大半は60代以上の男性である。 「会社人間が地域に溶け込むのは難しいと言われますが、皆さんはどうですか?」。講師を務めるラボの中村善輝ディレクターが問いかけるが、答えはない。「その通り」と認めるのはしゃくに障るが、「そんなことはない」と言えるなら、この講座を受講するはずもない。やや気まずい沈黙が広がる中、女性スタッフとの掛け合いも交えながら中村ディレクターの講座が始まった。 ■ □ ボランティア活動には四つの原則があるという。土台となる大切な原則は自発性。「会社は縦社会なので、上司の指示があるけど、地域は横社会。ボランティアは、自分で動きたいから動く。これが大事。皆さん、誰かの指示で講座に来たわけじゃないですよね?」。受講を決めた段階で自発性が働き始めたわけだ。 続いて、「みんなのために」という社会性、金銭(対価)を求めない無償性、多様化する課題に知恵を絞る創造性…と原則の解説が続く。「無償だから金銭的価値に縛られずに活動ができ、広く共感も得られる」。ただし、地域活動はボランティアだけではない。 地域の役に立ちたい。でも、少しばかり報酬を得て年金暮らしを彩りたい。「シルバー人材センターを通して働く、地域のスーパーなどで数日働く。これも地域活動の一つの方法です」と中村ディレクター。会場の空気が少し和んだ。 実際に地域で活動する場合、二つの「型」が考えられる。まず地縁型。福津市内には多くの自治会があり、八つの地域で「郷づくり推進協議会」を構成、PTA、子ども会などとも連携して、自治活動を展開している。地域の自治会などで活動するのが地縁型だ。 一方、地域の区割りを越えて、子育て支援や環境美化などを掲げたボランティア団体も活動している。目的(志)を共にする志縁型活動と呼ばれている。 「どちらかの型を選ぶわけではない」と中村ディレクターが実例を紹介する。 Aさん=71歳までバスの運転手。地区の高齢者助け合い活動の傍ら、松林保全活動も続けている Bさん=退職後にシルバー人材センターに入会、庭木の枝切りを担当。子どもと一緒に米を作るボランティアも楽しんでいる Cさん=退職後にシルバー人材センターに入会、学童保育で勤務。働いたお金で趣味の山歩き 「地域での役割探し、居場所づくり、仲間づくり。活動の目的は人さまざま。自分に合った方法で地域活動に参加してください」 ■ □ 「何から始めたらいいのか…」と迷ったとき、多くの自治体では社会福祉協議会やボランティアセンターが相談窓口となる。福津市の場合はキッカケラボが力になる。今回の講座ももちろん、地域デビューの「キッカケ」提供が狙いだ。 「2年前に退職してから、なんもすることがない」と語る67歳男性は「知らない活動がいろいろあることが分かった」と話す。2年後に退職予定の63歳男性は「地域デビューに向けて情報を集めているところ」。中村ディレクターは「生き生きと幸せに暮らせる町をつくるには、市民の参画と協働が欠かせない。市民活動の支援に力を入れる自治体は増えていく」と語る。