住宅耐震化に地域差 静岡県の補助方針、先行き不透明【能登半島地震半年】
能登半島地震で重要性が浮き彫りになった住宅の耐震補強は静岡県でも関心が高まっているが、課題は少なくない。6月中旬、下田市の下田港近くの中心街。1級建築士矢田部広志さん(74)が店舗兼住宅の耐震診断に訪れた。「これは市の無料診断の対象外ですね」。矢田部さんの説明に所有者の女性(71)は「商売も厳しく、全て自費での補強は難しい」と肩を落とした。 矢田部さんによると、母屋は旧耐震基準時代の1965年に建てられたが、連結して増築された部分は81年の新耐震基準以降の建築。古い建物も一体で構造計算を行うため、計算上は補強されたこととなり、旧耐震の建物を対象とする補助事業の対象にならない。谷田部さんは「新基準ができた当初は完了検査が義務化されておらず、実際には基準を満たさない建築物も一定数ある」と指摘する。 2001年に静岡県の木造住宅耐震化プロジェクト「TOUKAI(東海・倒壊)―0」がスタート。市町も補助制度を設け、県を挙げて耐震化を図ってきた。23年度末までの助成は2万6516戸で全国トップクラス。一方、耐震化率や補助事業の利用状況は地域差が顕著だ。県によると、静岡県の耐震化率は89・3%(18年時点)だが、下田市は70・8%と平均を下回る。南伊豆町が62・6%と最も低く、次いで松崎町が63・6%。直近10年の補強工事の助成件数は南伊豆町1件、河津町2件だった。能登半島地震で広範囲で建物被害があった奥能登地域のように高齢化や過疎化が進む賀茂地域や川根本町など山間部で耐震化が遅れている。 県の木造住宅の無料診断は24年度、補助事業は25年度で終了予定。県は耐震シェルターや防災ベッドの設置へ重点を置きつつあり、耐震補強補助の方向性については未定だ。担当者は「市町の意向を確認して方針を決めたい」とする。 下田市など伊豆半島沿岸部では津波への意識は高いが「逃げるためにも家がつぶれないことが重要、とは理解されにくい」(市担当者)。補助制度について、松木正一郎市長は市議会6月定例会で県に継続を求めつつ、市として経費を抑えた耐震化手法を模索する方針を示した。川根本町も「多少制度を変えても続けられないか県に要望したい」としている。 1981年から2000年の法改正より前に建てられた新耐震基準の建築物への対応も重要となっている。老朽化やそもそも基準に満たない建物があるためだ。1級建築士の矢田部さんは「2000年基準まで補助の対象を広げればより耐震化が進む」と訴えた。
静岡新聞社