世界的な大ヒットを続けるSF映画「スター・ウォーズ」シリーズの新作「ローグ・ワン」。これまで計7作が世に出たシリーズのスピンオフ(派生)作品第一弾としてファンの期待を集める一方、起用された俳優陣の人種が多様だったことも注目されている。ハリウッドリメイク版「GODZILLA ゴジラ」を監督後、「ローグ・ワン」に抜擢されたギャレス・エドワーズ監督(41)にキャスティングの狙いや、日本映画から受けた影響などについて聞いた。(Yahoo!ニュース編集部)
動画:「ローグ・ワン」の多様性と日本映画からの影響
「今の時代に意味を持つ物語を作りたかった」
「ローグ・ワン」はハリウッドの大作映画でありながら主要な役に中国のスター俳優ドニー・イェン(53)やメキシコ出身のディエゴ・ルナ(36)らを据え、世界市場も意識したキャストの出身地域の幅広さが注目を集めている。一方米国では2016年、人種間の亀裂が社会問題として度々報道され、大統領選でも主要なテーマの一つとなった。選挙後には、本作に関わった複数の脚本家の内2人がツイッター上で人種問題に言及したことも話題を呼んだ(ツイートはその後削除)。今回、多様な出自の俳優を起用したことはどのような意味を持つのか。
―今回、多様な出自の俳優をキャスティングした意図は?
「スター・ウォーズ」が描く世界には宇宙人や言葉を話す魚、ロボットなど様々なキャラクターが数多く登場します。ならば、この地球上の多様な人種を出したいと思ったのです。そう考えると、世界中から優れた役者をキャスティングするのは自然な成り行きでした。ポスターに各国の俳優が並んだときに初めて、多様な人種が揃ったなと感じました。ただ、これは今の時代において重要なことだとも思います。私はイギリス出身でイギリス人の俳優が出演する「スター・ウォーズ」を観て育ちましたが、世界の人々は他の地域の人も登場する作品を待ちわびていたのではないでしょうか。
―今後ハリウッド大作の主要な役に多様な人種が起用されることは増えると思いますか?
今の世界は、インターネットや国際的なメディアによって全てが繋がってきていると思います。それはつまり、一つの事柄に対して様々な視点を得られる時代だということです。以前は、それぞれの国が自らは正しく、他の国は間違っているというような単純化された視点が一般的でした。しかし、この映画では誰かが正しく、他は間違っていると善悪をはっきり分けることはせず、誰もが曖昧な部分を抱えていることを描こうとしました。そして、何か偉大なことを達成するためには多様な文化や歴史、価値観をもった人々が集まって力を合わせることが必要ではないか。本作にメッセージがあるとすれば、私たちは“同一の惑星にいる者”として協力し合うべきではないか、というものです。
―最近米国では人種間の亀裂が社会問題として注目を集めています。映画という影響力の大きいメディアで多様な人種を起用することの意味をどう考えていますか。
世界は多様性に溢れていて豊かだ、ということを思い出してもらうきっかけになればと思います。
人は見た目が違っても、中身はなんとなく似ているものです。それを私たちは忘れがちです。「スター・ウォーズ」はこれまでも、人間という存在を上手く描いてきたように思います。何千年も前から伝えられている物語が今でも古びないのは、人間が本質的には変わらないからです。だから、何世代も前による物語であっても今日の我々に通じるところがあるのです。
私たちは映画製作者として政治的なメッセージを伝えようとしているわけではありません。ただ、今の時代に意味を持つ物語を作りたいと思っています。そして、それを追求すると映画は自ずと社会を映す鏡になるのです。どの時代の「スター・ウォーズ」であっても、しっかりと作られていれば、社会を映し出しているのだと感じられると思います。
黒澤映画からアニメの影響まで「作品を見れば分かるはず」
「スター・ウォーズ」シリーズを生んだジョージ・ルーカス監督は、「七人の侍」(1954)などで世界的に有名な故・黒澤明監督の影響を受けたと言われている。インタビューに先立って行われた映画発表の記者会見ではエドワーズ監督も黒澤作品に触れ、「盗用と言われようが、良いものは参考にする」と語った。日本に過去3度訪れた親日家でもあるエドワーズ監督は、日本映画や文化のどの部分に惹かれたのか。
―日本の映画や作家に強く影響を受けたと聞きます。
今回の映画製作は、まずルーカス監督が大きく影響を受けた黒澤作品などを観ることから始めました。どれも衣装からキャラクターまで素晴らしいビジュアルに溢れていると感じました。
製作スタッフには、自分の好きな写真やデザインなどのイメージをまとめて配って、どのような作品にしたいのか説明をしました。その中には黒澤監督の「七人の侍」や「用心棒」の他に、「座頭市」などが含まれていたと思います。あと、アニメの影響も少しあったかもしれません。例えば、「AKIRA」がありますね。短い場面ですが、「AKIRA」に大きく影響を受けた部分があります。作品を観たらなるほど、と理解してもらえると思います。
―具体的にはどのような点にその影響が現れているのでしょうか。
映画の冒頭にある、主人公の父親が悪役と対立するシーンは、“サムライ”映画を彷彿とさせるものにしようと試みました。「七人の侍」で観た素晴らしい映像に影響を受けて、登場人物の衣装や見た目、髪型などが日本映画のように見えるようにしたのです。もし彼が日本人の俳優だったら、単なる真似事になってしまったでしょう。
ルーカス監督は様々な素材を集めて一つの鍋に詰め、かき混ぜ、それらを溶けあわせるのが上手でした。そうすることで元ネタは分からなくさせつつも、直感的には「アリ」と感じられるものを生み出してきたのです。
―日本の観客にはどのように受け取られると思いますか?
「スター・ウォーズ」はとても長い物語だと知られていますが、「ローグ・ワン」は1つの物語としても完結した作品です。ですから、これまでの映画を観たことがなくても関係ありません。この世界に触れるきっかけとしていい作品なのではないかと思います。「スター・ウォーズ」は古代の歴史とSF的な未来像を組み合わせた物語です。日本は伝統や歴史を重んじる一方で、テクノロジーがとても発展した国だと思うので、とても近いものを感じます。正直に話すと日本映画からは本当に多くを“盗んで”いるので、そこは許してほしいですね。
「本当に宇宙を旅しているように撮影した」
「ローグ・ワン」は、1977年に公開された「スター・ウォーズ」シリーズ第一作の「エピソード4/新たなる希望」の前日譚を描く作品だ。2012年にシリーズの製作会社であるルーカスフィルムを買収したウォルト・ディズニー・カンパニーは、既に複数のスピンオフ作品の製作を発表しており、本作はその計画の試金石となる。今年夏には、大幅な追加撮影が行われたことも米映画専門メディアで報じられた。製作費が大きく、長い歴史も持つシリーズを手がけるにあたって監督のこだわりはどのような形で現れているのだろうか。
―本作で最もこだわったことは?
とにかくリアルにするということに一番こだわりました。CGを駆使することで宇宙での対戦や壮大なシーンを撮ることができましたが、一方でできるだけ現実的で、感情の通った作品を作ろうとしました。
例えば、宇宙船のセットはロボティックアーム(産業用ロボットで物体を運ぶ機械の腕のこと)に掴ませて本物のように動かしました。そして周囲にはLEDスクリーンを180度配置して、飛行経路をプログラムした映像を流したのです。こうして宇宙船のドアを閉めて1時間も撮影をすると、皆まるで本当に宇宙を旅しているかのような感覚になりました。当然汗をかいて、疲弊するのですが、迫真の演技を引き出すことができたと思います。
全てにおいてそのような手法をとりました。セットを作るときは毎回360度全ての景色があるようにして、俳優がどこにでも歩いて行けるようにしました。それがまるで本当の場所であるかのように。
自分が少年だったころ、「スター・ウォーズ」を観てああいう惑星に行ってみたい、ああいう場所に住んでみたいとワクワクさせられました。それが本物だと信じられる世界をつくりたい。私にとってこの映画は、それを実現するチャンスだったんです。
ギャレス・エドワーズ(Gareth Edwards)
1975年生まれ、イギリス出身。映画監督。「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」(1977)と「未知との遭遇」(1977)に出会い、映画監督を目指すようになる。映像の特殊効果アーティストとしてBBCなどのテレビ番組を手がけ、「モンスターズ/地球外生命体」(2010)で長編監督デビュー。ハリウッドリメイク版「GODZILLA ゴジラ」(2014)が全米で2億ドル、全世界で5億3000万ドルの大ヒットとなる。
制作協力:古田晃司・久保田誠・関澤朗