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米国で女性大統領誕生を阻んだ「ガラスの天井」、日本では

2016/11/17(木) 14:30 配信

「私たちはいまだ、最も高く、硬い『ガラスの天井』を破ることができていません」。米大統領選で敗北したヒラリー・クリントン氏は、初の女性大統領誕生が幻となったことをこう表現した。翻って日本はというと、世界経済フォーラムが10月に発表した報告書では、男女格差の比較で144カ国中111位(米国は45位)。国会議員の女性比率の低さや女性首相が出ていないことが足を引っ張り、女性の活躍を阻む「ガラスの天井」はさらに分厚い。この国の政治の現場が、「女性の活躍」という掛け声どおりに天井を打ち破れる日は来るのか。自由民主党の野田聖子議員、民進党の蓮舫代表と、政治学者の三浦まり氏に話を聞いた。(ライター・秋山千佳/Yahoo!ニュース編集部)

有権者からも女性議員を求めてほしい

野田聖子・自由民主党衆議院議員

野田聖子(のだ・せいこ)1960年、福岡県生まれ。上智大学外国語学部卒業。帝国ホテル勤務後、岐阜県議会議員を経て、93年に衆院選で初当選。第一次小渕内閣で郵政大臣に就任し、以後、内閣府特命担当大臣(科学技術政策・食品安全)などの閣僚や自民党総務会長を歴任した。現在8期目。5歳の男児の母(撮影: 塩田亮吾)

安倍政権になって女性活躍推進という政策を国民に突きつけた一方で、政治分野では、掛け声がむなしく響いているなという感じがします。

日本では、法律を作る担い手である国会議員のおよそ9割が男性です。女性の深刻な社会問題について、語られてはいても抜本的に手立てできないのは、圧倒的に女性側の立場に立ってくれる議員が少ないから。非正規雇用が多いのも、低賃金なのも女性だし、シングルマザーが貧困になるのも日本の特徴で、少子化が問題だと言いながら、一人で育ててくれているお母さんもそのお子さんも貧困にさせる国ってどうかと思いますよね。

野田氏は1993年の衆院選で初当選。当選同期には安倍晋三首相がおり、自民党の女性衆院議員では最長の23年のキャリアを持つ。自身の不妊治療や超高齢出産、障害を持つ子の母親というプライベートの部分も、たびたびマスメディアに取り上げられてきた。

2016年1月時点で、日本の国会議員717人のうち女性は83人(衆議院45人、参議院38人)。野田氏が指摘するように、シングルマザーが大半を占めるひとり親世帯の相対的貧困率(2012年)は54.6%にものぼり、先進国の中でも最悪の水準だ。

結局、国会ではいろんな法案審議が行われますけど、優先順位というのは「重要度」より「関心度」なんですね。国会議員が関心を持たない限り、法案そのものが動かない。「塩漬け」になっている代表例が、選択的夫婦別姓ですよね。9割以上は女性が姓を変える話だから、男性議員が9割の国会ではほとんど話題にものぼりません。自分たちの痛みになっていないから。出産・子育てに関しても同じ。とにかく女性議員の数を増やさないことには、重要な問題であっても、先送りが続くばかりです。

上院議員、国務長官と政治的キャリアを積んできたヒラリー・クリントンだが、大統領という最高位に上ろうとしたとき、「ガラスの天井」に阻まれた。写真は2013年、国務長官当時の演説風景(写真: ロイター/アフロ)

だからまず「政治分野における男女共同参画推進法案」を、できればこの臨時国会で通したいと取り組んでいます。

この法案は、政党が候補者を擁立する際に男女比の均等を目指すことなどを掲げた理念法。野田氏が幹事長を務める超党派の議員連盟が、昨年からまとめてきた。

拘束力のない努力義務ではありますが、理念を掲げることで、必ず法案の化学反応は起きます。過去の例を挙げると、私が起案した「発達障害者支援法」というのが10年ほど前にできたんですけど(2004年制定、2005年施行)、それ以前は発達障害を抱えた子どもたちは「落ち着きのない子」「しつけのできていない子」として学校で持て余されていました。ところが、支援していこうというこの理念法を作った途端、全国に発達障害者支援センターができるし、学校教育現場でも発達障害の学習が始まるしと、大きく変わったわけですよ。

「政治分野における男女共同参画推進法案」に関して、自民党内の反応は、「まあ、やむを得ない」という感じかな。男性議員は自分たちが損をする話だから、嫌なんだろうなという雰囲気。でも(安倍)総理が、2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にするという政府目標の「2030(にいまるさんまる)」を掲げている以上、反対する人には、造反ですかと言うしかない。政治だけ除外にはできないでしょう。

あとは、有権者が選挙で候補者や政党を選ぶときには、原発とか安全保障とか判断材料がありますが、その3つ目くらいに女性候補者の比率を位置付けないといけないんじゃないかなと。例えば自民党は候補者の3割を女性にしました、とか。今はそういう判断材料がないでしょう。これは政党任せにせず、有権者からも求めていってほしいですね。政党はすべて男性の方が多いから、有権者から突き上げない限り、既得権益を返上するようなことはしないので。

米国は、女性国会議員も決して多くないし、今回の大統領選でわかるように保守的なお国柄です。ヒラリーさんは男女にかかわらず優秀な政治家のお一人ではあるけれど、不運なことに女性ということでハンデを背負っていた。では、日本はどうかというと、女性総理が出るチャンスがあるとしたら、経済が落ち込んで、これまでの男性目線中心の政策が間違っていたと気づくときでしょう。日本が他国と比べてはるかに遅れているのは、女性という素晴らしい社会資本を活かしきれていないこと。女性がトップになって活躍を「見える化」することができれば、相当日本は変わると思いますね。

日本でもまだまだ「ガラスの天井」は壊れない

蓮舫・民進党代表

蓮舫(れんほう)1967年、東京都生まれ。青山学院大学法学部卒業。報道キャスターなどを経て、2004年に参院選(東京都選挙区)で初当選。民主党政権時は内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)を務めた。2016年7月の参院選では東京都選挙区でトップ当選。現在3期目。9月の代表選で民進党代表に就任した。19歳の男女の双子の母(撮影: 塩田亮吾)

(ヒラリー・)クリントンさんについては、最も「ガラスの天井」を壊す可能性の高い方だと思っていました。多くの米国の女性たちの応援も見ていましたので、この結果によって、今後(大統領選に)手を挙げる女性が少なくならないことを願います。

わが国でも女性リーダーの誕生は、まだまだ「ガラスの天井」だと認識しています。

蓮舫氏は今年(2016年)9月の党代表選で、前原誠司元外相と玉木雄一郎衆院議員を大差で破った。民主党時代を含めて初の女性代表であり、野党第一党の党首に女性が就任するのは、旧社会党の土井たか子委員長以来、30年ぶりのことだ。

2004年に少子化と子育て対策充実を「ママフェスト」として掲げて初当選しており、今回の代表選でも「(女性の社会進出を阻む)ガラスの天井を壊す」ということを繰り返し訴えていた。

だいたい、女性が「初」と評されるうちは、期待ゆえに失敗したら失望もまた大きいと思うんです。「女性は」に続く言葉が「やっぱり」「これだから」となる。男性の場合は、失敗するのも成功するのも普通のことですから言われないですよね。

似たようなことは、女性の国会議員が増えない背景にもあります。女性が立候補して残念な結果になり、再度立候補しようとすると、その方の周りが「まだやるのか」という意識を強く持つ。女性政治家希望者に対する視線が、男性が失敗することよりもはるかに厳しいんです。

それ以前の事情もあります。政治家になってもらいたい女性とお話をして、実際手を挙げていただくのにご本人が最も戸惑われるのは、結婚していたら夫の説得です。次は夫の両親で、その次は夫の親族。結婚して自分の生まれ育った地域ではない場所にいる方は、特に、です。皆さん相当悩まれ、それで立候補を断念した方もいます。

男性でも女性でもまずは優秀な人に議員になってもらいたいのですが、私としては女性議員を増やしたいのが本音です。擁立にいたるまでの労力も女性は倍以上かかりますが、もし同じ能力の男性と女性がいたなら、女性を選びます。

女性が増えると、明らかに場の空気が変わるからです。今わが党の参議院議員50人中、女性が12人います。ほぼ4分の1です。この12人は大きな力ですよ。男性議員だと国会運営の慣例に疑問を感じないのに対して、女性議員は「なんで?」と素直に声をあげますから。

例えばある夏、国民には「クールビズ」と言いながら、国会の委員会での室内温度が18度と低く設定されていたことがありました。男性議員は皆、スーツを着ていますから、低すぎると感じていなかったんです。それを「おかしいんじゃない」と私が言った瞬間、28度設定になりました。世の中にクールビズを推奨しておいて自分たちだけ除外なんておかしいっていう話ですよね。一事が万事、こういうおかしさに気づくのは女性のような気がします。

2005年からドイツ首相の座にあるアンゲラ・メルケル。国内のみならず、EU(欧州連合)でも大きな存在感を示している(写真: ロイター/アフロ)

また、キャロライン・ケネディ駐日米大使と先月(2016年10月)会談しましたが、対男性とは違う空気感がありました。まず、会話に入るのが早い。これが男性だと、イコールなパートナーなのか、お互いがどこに価値観を見出すのかと、入り口に若干の瀬踏みがあると思います。ポジショニングがないと議題の意見交換に入れないような。女性ってそういうものがない。単刀直入に「あなたがどういうポジションだろうと、私はこういうことを問題だと思っている」ということに入れるのでしょうね。

日本で(「初の」女性総理誕生という)「ガラスの天井」を破る可能性はというと、少なくとも野党で一番近いポジションにいるのは私だと思います。しかし、私たちは衆議院96人、参議院50人という小さな政党ですから、その道のりは、まだまだ遠いものがあります。リアルな可能性にするためには、もっと信頼を積み重ねなければなりません。「初」となるからには、失敗できないプレッシャーも大きいものがあります。でも、常に挑戦しないと女性の後進に道がひらけない。当然狙っていきます。

日本は世界から20年遅れ

三浦まり・上智大学法学部教授(政治学)

三浦まり(みうら・まり)1967年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校政治学博士課程修了。Ph.D.(政治学)。東京大学社会科学研究所研究機関研究員を経て、上智大学法学部教授。専門は現代日本政治論、比較福祉国家、ジェンダーと政治。著書に『私たちの声を議会へ―代表制民主主義の再生』ほか多数(撮影: 塩田亮吾)

世界の女性議員比率の平均は、過去20年間で11.3%から22.1%(2015年1月時)へと倍増しました。日本はというと、衆参両院で11.6%、衆議院に限れば9.5%(いずれも2016年1月時)で、下院(日本では衆議院が相当)での比較で191カ国中156位です。現状は世界から20年遅れということです。

各国下院(日本は衆議院)における女性議員比率。出典: IPU, Women in Parliament: 20 years in review 『日本の女性議員 どうすれば増えるのか』(三浦まり編著)より再構成

この順位は日本が「後進的な国」だという印象を与えています。人口減で女性を活躍させる経済戦略を追求しながらも、世界経済フォーラムが発表する男女格差指数では2015年(101位)から10位も下げてしまった。この事実は、男性の利権を守る方が重要だというメッセージを世界に発信してしまっています。せめて政治の部分で指数を上げるためには、女性議員を増やすしかありません。

女性議員の世界平均が上昇した最大の理由は、クオータ(quota、性別割当)制の普及です。クオータとは、なんらかの形で女性または両性に議席や候補者の一定比率を割り当てるという制度で、現在118カ国以上で施行されています。ちなみに米国はその中に入っていません。

日本では、クオータというと変わったシステムくらいのイメージしかなく、世界の半分以上の国がやっているという理解はされていないんじゃないかと思います。4分の1を意味する「クオーター(quarter)」と勘違いしている人も結構いるぐらいですから。

クオータには強制力の強いものから弱いものまで様々な制度があり、強制力が強いほど実効性は高まるものの、違憲の可能性も高まるというのが憲法学者の見解です。超党派の国会議員による「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」のワーキングチーム(作業部会)で私はアドバイザーを務めましたが、そこでは策定する法案が違憲にならないよう、まずは努力義務の理念法を作ろうということになりました。

そして「政治分野における男女共同参画推進法案」の骨子には、候補者の擁立時に「パリテ(parité)」を目指すことが盛り込まれました。

パリテとは、フランス語で同数や同等を意味します。人口は男女半々で構成されているから、議員数もそれに比例して男女均等を目指しましょう、という発想です。世界的にも、主に欧州や中南米で、クオータ制から「パリテ法」に移行してきています。

パリテはクオータと違って、反論がしにくいんですね。「男性の方が能力的に優秀だから」となると当然、疑問符がつきますし、有権者の性別が半々なのに「女は少なくていい」とはさすがに言いにくい。

2016年7月に保守党党首、イギリス首相となったテリーザ・メイ(写真: ロイター/アフロ)

ただ、推進法ができたら政治分野で「2030(にいまるさんまる)」(2020年には指導的地位に占める女性の割合を30%にするという政府目標)が実現できるかというと、それは無理でしょう。強制力のない理念法ですし、下院の女性議員比率でみると、現在の日本の偏差値は41なんです。女性比率30%というのは偏差値58なので、現状で30%を目指すのは“ビリギャル”が慶応大学合格を目指すようなもの。ビリギャルは一人が頑張ればいいけれど、こちらは多くの人の人生がかかった話ですからなおのこと難しいです。まずは、2025年までに倍増の20%というのが現実的ですし、確実にやりとげる必要があります。

今年(2016年)は、日本の女性が参政権を獲得してから70周年です。100年前には女性が参政権を持つなんて誰も思っていなかったし、それを変とも思わなかった。でも今では、片方の性に参政権がないだなんてありえないですよね。そういうふうに、民主主義の「当たり前」は変わっていきますから、いずれはどんな意思決定も男女半々じゃないと何か変、ということになってくると思うんです。

カナダのジャスティン・トルドー首相は、男女同数のパリテ内閣を組閣したとき、理由を聞かれて「だって2015年だから」と答えていました。彼の頭の中はもうパリテが当たり前なんですよね。そういう人の割合が増えてくれば、日本でも21世紀のうちに達成できるかもしれませんね。

2015年にカナダ首相に就任したジャスティン・トルドー(前列左から5人目)は、新内閣(首相を除き30人)を男女同数で組閣した(写真: ロイター/アフロ)


秋山千佳(あきやま・ちか)
1980年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。記者として大津、広島の両総局を経て、大阪社会部、東京社会部で事件や教育などを担当。2013年に退社し、フリーのノンフィクションライターに。著書に『ルポ保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』、『戸籍のない日本人』。

[写真]
撮影:塩田亮吾
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝
[図版]
ラチカ

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