岡本裕志

日本人の8割「中国に親近感なし」 過去最悪になったのはなぜ?

2016/5/19(木) 12:11 配信

今年3月に公表された内閣府の「外交に関する世論調査」(昨年10月実施)で、中国に対して「親しみを感じない」「どちらかというと親しみを感じない」の割合が83.2%に達した。1975年から続くこの調査で、過去最悪の数字である。かつては「親しみを感じる」が8割近くもあったのに、いまでは全く逆の状態だ。なぜ、ここまで対中感情は悪化してしまったのだろうか。中国研究の専門家はどう分析しているのか。その言葉にじっくりと耳を傾けた。(Yahoo!ニュース編集部)

年齢が高い人ほど「対中感情」が悪い

日中の国交正常化は今から44年前、1972年のことだった。1945年に第2次世界大戦が終わってからおよそ四半世紀が過ぎていた。

中国から東京・上野動物園にパンダが寄贈されて大ブームになったり(72年)、NHKと中国放送局が共同制作した特集番組「シルクロード」が大人気を呼んだり(80年~)。1970年代から80年代にかけては、「外交に関する世論調査」でも「親しみを感じる」が「感じない」を上回っていた。1980年調査では「親しみを感じる」が78.6%。まさに、今と正反対だった。

今回の世論調査では、世代間の差異も垣間見えた。50代、60代と年齢が高くなるにつれ、対中感情は悪化している。逆に20代、30代は、上の世代ほど対中感情が悪くない。

中国に対して「親しみを感じない」という人の割合は年々高くなっている

今回取材した専門家は総じて「50代、60代はかつて、中国や共産主義に希望を抱いた世代。それが中国の内情が明らかになるにつれ、幻滅に変わった。一方、若者にはそうした経験がないから、嫌悪感も少ない」と見る。

では、1人1人の専門家に「83.2%」の意味を語ってもらおう。

興梠氏「天安門事件で平和的なイメージが崩れた」

神田外語大学教授の興梠(こうろぎ)一郎氏は、大手商社の中国チームや外務省国際情報局などで勤務経験がある。興梠氏は「日中友好」が大いに盛り上がった時代があったことに言及し、「最初に好感度が下がったのが、1989年の天安門事件です」と続けた。

天安門事件と漁船衝突事件が「対中感情悪化」のきっかけと指摘する興梠一郎氏(撮影:岡本裕志)

天安門事件とは、言論の自由や民主主義の実現などを求めて若者らが立ち上がり、それを中国共産党が武力で弾圧した事件である。北京では多数の戦車が動員され、砲口は市民に向けられた。

「その映像が世界中に流れた。中国に対していいイメージ、平和的なイメージを持っていた人のイメージが一挙に悪くなりました」

実際、天安門事件の直後に実施された1989年秋の外交世論調査では、前年68.5%あった「(中国に)親しみを感じる」が51.6%に急落している。その一方で、「親しみを感じない」は、26.4%から43.1%へと急増した。

「その後の極めつけは2010年、漁船衝突事件です。中国漁船が(日本の巡視船に)ぶつかってくる映像がどんどん流れ、日本側が漁船の船長を逮捕すると、中国では(大規模な)反日デモ。一挙に中国のイメージが悪くなりました」

2010年の漁船衝突事件で「中国に親しみを感じない」が8割近くまで急増した

興梠氏がもう一つの転機として指摘するこの事件。尖閣諸島付近で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が起きた後、中国に「親しみを感じない」人の割合は、前年の58.5%から77.8%へと約20ポイントも上昇した。

石平氏「江沢民政権の“反日教育”で悪化」

拓殖大学客員教授の石平(せき・へい)氏も、対中感情の悪化は中国側に原因がある、と言う。1980年代後半に日本へ留学。2007年には日本国籍を取得した。中国の一党独裁に対し、一貫して批判を続けている。

約10年前に日本へ帰化した石平氏は「中国は愛国主義の旗を掲げることで、共産党政権の維持をはかろうとしている」と指摘する(撮影:岡本裕志)

「愛国主義的な雰囲気を出すには、外敵が必要ですよね? 外敵がいなければ愛国主義が盛り上がらない。どこの国もいつの時代でもそうです。その外敵はどうすればいいか? 仮想の外敵を作り出すんです」

中国では、天安門事件の後に江沢民政権が生まれてから“外敵づくり”が行われるようになったと石氏は主張する。

「1990年代から学校教育を中心に反日教育が行われた。テレビも新聞も出版も全て反日。戦争中の日本と中国の出来事を材料にし、全て日本が悪いと持っていく。江沢民政権になってから、中国は天安門事件の後遺症から徐々に立ち直り、国際社会に復帰した。同時に、外交政策でも日本に対し高圧的な態度に出るようになった。日本での対中感情の悪化は、それが大きなきっかけだと思います」

その流れは、現在も変わっていない、と石氏は見ている。

中国の外交政策の変遷にともない、日本での対中感情は悪化していった(撮影:岡本裕志)

江沢民政権時代から中国の変化が顕著になった――。そうした経緯があるにしても、対中感情がさらに悪化したのは、ここ数年。「外交に関する世論調査」で、「親しみを感じない」が70%を超えるようになったのは、2010年からだ。

先に触れたように、同年に起きた中国漁船衝突事件が大きなきっかけと言えるが、その背景には何があるのか。興梠氏はこう語る。

「中国は世界第2の経済大国になった。力が付いたから、指導者たちは『言いたいことを言うし、やりたいことはやらしてもらう』と。そうすると、摩擦が起きる。当たり前ですよ。尖閣問題も含め、南シナ海とか、ちょっと前の防空識別権の問題とか。そういった映像が、日々日本のメディアに流れ、中国に対するイメージは非常にネガティブになっていった」

日本の観光地にいくと、写真撮影をする中国人観光客の姿をよく見かける(撮影:岡本裕志)

李小牧氏「中国人観光客のマナーの悪さも一因」

中国はいま、世界中で経済力を見せ付けている。日本への観光客も激増し、日本を訪れた中国人は昨年、過去最高の499万人にも上った。来日して28年になる作家の李小牧氏は、急増する中国人客も対中感情の悪化につながっていると話す。李氏の称号は「歌舞伎町案内人」。新宿でレストランを経営し、ここを拠点に観光ガイドも務めてきた。

「歴史の問題もあるけど、例えば、爆買い。最近毎日来る中国人は、マナーも当然日本人と違う。歩いていても普通に携帯電話で大きな声でしゃべる。もちろん日本のGDPに貢献する中国人もいるけど、(習慣の差異などから感情面で)いろいろな問題が出てくる」

一時、歌舞伎町を仕切った中国マフィアの実像も知る李氏。その経験などから「近くで接すると、余計に双方はぶつかる」とも言う。

中国出身の李小牧氏は「中国では国内に何か問題があるとき、日本の問題が出てくる」と指摘する(撮影:岡本裕志)

日本人の7割「中国との関係は重要」

実は、「外交に関する世論調査」によれば、日本と中国の関係が「重要だと思う」「まあ重要だと思う」と考えている人の割合は73.3%に上る。日本人の多くが重要だと考えている日中関係は今後、どうなっていくのか。中国とはどう付き合えばいいのだろうか。

石氏は「深入りしないこと」と明快だ。「ある程度の距離を置き、淡々と、ほどほどに付き合う。そうすると戦争も起こらない。お互いの反目も起こらない。皆がハッピー。それが私の持論です」

その上で、互いの認識ギャップにも触れた。

「中国に住んでいる人は、日本人が中国をどう感じているかをあまり気にしない。アメリカ人がどう見ているかはすごく気にするけど、日本人は眼中にない。おそらく大半の中国人がそう」

中国人が日本の文化に触れることで、日本に対する見方が変化していくかもしれない(撮影:岡本裕志)

世界第2位の経済大国になった中国は、日本バッシング(日本叩き)から日本パッシング(日本無視)になっている、との見方だ。そうした中、訪日観光客の増加が、中国人の日本観を変えるきっかけになるかもしれない、と石氏は言う。

「東日本大震災の時、いろんなエピソードが中国で紹介され、日本人は礼儀を守る、他人のことを思う、すごくいい民族ですよ、となった。多くの中国人は『教科書で言っている日本人と違うじゃないか』と。そう考えると、中国人観光客の増加も、また一つ、反日教育の壁を破る機会になる」

「日本に来て、嫌な体験はないはず。(反日教育とは全く違う)清潔さ、日本的なもてなし、サービス、快適さ。中国人はネットで旅行記を書き、日本をほめる。そういう情報が広がると、中国国民は分かってくる人が多い」

李氏も「中国人はもっと世界に出て、自国に対する批判を知るべきだ」と話す。

「在日中国人の中でも留学生や日本語学校の生徒は、けっこう自分のウェブなどで中国の良くないところを(自ら)批判しているんです。中国ではメディアが伝えないから分からない。日本のメディアが(日本語で)中国を批判しても中国には伝わらない」

だから、日本だけでなく、世界で批判されていることを、観光で来る中国人にもっと伝えないといけない、と李氏は考えている。

日本で観光する中国人グループ。訪日中国人の数は昨年、過去最高を記録した(撮影:岡本裕志)

富坂氏「中国をどう利用するかを考えるべき」

拓殖大学海外事情研究所の富坂聰教授は、ルポライターとして中国に長期滞在しながら、中国の社会問題をえぐり出してきた。その富坂氏は日本人に対し、もっと現実を直視して、と呼び掛ける。

「中国と付き合う時、日本人は『中国人を信頼できない』と言うんです。国際社会でそんなことを言う人は、あまりいません。つまり、『なぜ、中国を信用しなきゃいけないのか』ということ。国際社会は利用し合う場所。利用すればいいだけのことであり、信頼する必要はない」

こう指摘したうえで、富坂氏は日本人に向けた提言を口にする。

「日本人は、必要な中国だけをもらえばいいし、もらえないときは距離を取ればいい。日本にとって、中国は利用するパートナーであり、手をつないで仲良くする相手ではない。そもそも国際社会では、国家間にそんな関係ありません」

中国の取材経験が豊富な富坂聰氏は「中国との距離が縮まった結果、日本との違いに戸惑っている人が多い」と語る(撮影:岡本裕志)

富坂氏はさらに続ける。

「国際社会を見る時、日本人は利害を中心に見なきゃだめ、ということです。それなのに価値観で見ようとする。『あの人とは一緒にできる』『あの国とは信頼できる』とか……。裏切るのが国際社会。それが基本です。そこを間違えてはいけないのに、間違えているのが日本の問題です。これはかなり根深い」

「実はアメリカとの関係でも同じです。アメリカも裏切ります。これまで何度もハシゴを外されました。(日本の頭越しに行われた米中国交樹立も)明らかにアメリカの裏切り。敵同士だった米中が突如、手を結んだ。『国際社会に信頼関係なんかありませんよ』と。日本はそこに立ち戻らないといけない。そして、いかに中国を利用するか、どこを利用できるか、と考える。そういう関係で良いんじゃないかと思います」

※冒頭と同じ動画

[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:岡本裕志
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝

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